キミといつまでも
 僕のマネージャー、むっちゃんこと向原 匡くんと、宇都宮でのアコースティックLIVEに二人で向かっている。
 宇都宮は東京から新幹線で45分くらい。諸事情により今日は日帰りだ。
「むっちゃん、朝早くてごめんね?」
「いえ!餃子食べたいです!」
「うん、そうだよね?」
 二人で向き合うとニヤリと笑った。
 九時には宇都宮駅に到着した。
 駅前にある行列必至の店へ急いだ。
 二人でガッツポーズ。
 まだ、五人しか並んでいなかったのだ。
 約一時間並んで開店を待ち、席に案内されるとイソイソと注文をして待つ。
 皿に熱々の餃子が盛られてやって来た。
 ここまでずっとマスクをしていたけど、外す。
 小さく「いただきます」と言うと、箸で餃子を摘まんだ。
 辣油を効かせた醤油に落とし、口に運ぶ。
「!!!」
「!!!」
 二人とも、声にならない歓喜。
 こうなると、箸が止まらない。
 あっという間に皿は空になった。
 顔を上げると、目が合う。
 再びマスクを着け、頷く。
 むっちゃんは会計に行き、僕は店を後にすると急いで餃子通りを目指す。
 目当ての店を発見すると、すかさず扉を開けた。
「いらっしゃい」
 威勢の良い声が迎えてくれた。
「二人なんですけど、連れは直ぐに来ます。餃子二枚で」
「はいよ」
 席に着くとほぼ同時にむっちゃんが到着した。
「先輩!凄いですよね?」
「うん。感動モノだよね?」
 むっちゃんは態と僕を先輩と呼ぶ、名を呼ぶとバレるからだ。
「おまたせ」
 二人の前に餃子の皿が並ぶ。
「!!!」
「!!!」
 先程とほぼ同じリアクション。
 黙々と皿を空にした。

 バスに揺られて大谷石博物館に向かった。今回の観光はここだけ。
 終始二人で「きれー」「すごーい」「さむーい」と騒いでいた。
 再びバスに揺られて宇都宮駅に戻ると、少し味を変えてみた。…勿論餃子だ。
 カレー味、チーズ味どれも美味しかった。
「むっちゃん、後悔はないね?」
「ないです」
「よし、ライブハウスへ向かうよ?」
「はい」
 こうしてむっちゃんとの餃子旅withLIVEは幕を閉じた。
 ん?
 諸事情?
 …覚えていたか…。

「陸、次のライブハウスツアーは宇都宮だったな?何時だ?」
 父が嬉々としてやって来た。
 零のようにフットワークは軽くない。
「来週末。」
「金曜?土曜?日曜?」
「…土曜…」
「裕二さん、その日はドラマの撮影が入ってますけど?」
 父のマネージャーに咎められ、ライブ開始ギリギリに来るというので、その日は日帰りだからバタバタすることになるので別の日に…と、なったのだった。
 折角の楽しみをぶち壊されたので、早くに行ってストレスを発散した…ということなのだ。
 しかし。
 前回同様、時間になってステージに立つと、一番後ろに父と義父が居るという、何ともやりにくい事態となった。
 そして、今は帰路である。
 会社が用意してくれた送迎車で父と義父とむっちゃんと僕の四人が同乗している。
 その前に夕飯と称して餃子屋さんで食事をしたが、むっちゃんは味がしなかっただろうなぁ、このメンバーじゃ。
「むっちゃん、寝てて良いよ?僕も寝る。」
「いえ、その」
「大丈夫、あの二人は既に寝る体勢だから。明日も仕事だよ?」
 そう、明日は久し振りにACTIVEが集まる。
 いよいよ本格的にLIVEを始動する。
 …大学も終了したしね。
「陸さん、新曲はどんな感じですか?」
「うん、今回はバラードを二曲。」
「僕、陸さんのバラードが好きなんです。特に歌詞が良いですよね。今回も楽しみです。」
 むっちゃんは可愛い。本当にACTIVEを大事にしてくれる。
 僕のマネージャーはいつもいい人ばかりだな。
 …マネージャーは誰が決めているんだろう?
 前の席で寝ている父の顔を見た。…まさか、ね。
「むっちゃんって、初めからマネージャー志望だったの?」
「はい、ACTIVEの活動をサポート出来たらっていうのが志望動機です。面接で零さんにお会いできてびっくりしました。」
「それは、僕も今、びっくりしたよ。」
 そうか、そういうことか。
 いつ、面接の情報をキャッチするのかな?
「ねぇ、むっちゃんのこと、色々教えてくれる?次の曲の参考にしたいんだ。」
「え?僕のことですか?照れるな。」
 そう言いながらも一番古い記憶から順に教えてくれた。
 お陰で良いネタも仕入れられたよ、三曲はいけそうだ。

 車が都内に着いたのは、深夜だった。
「むっちゃん、ウチに泊まっていかない?都竹くんもいるし、遠慮しなくて良いから。」
 そう言って半強制的に連れ込んだ。
 これで、運転手さんも家に帰れるしね。
「ただいま」
 僕は小さな声でドアを開けたんだ。
 なのに中からは
「お帰りなさーい」
と、大きな声で返ってきた。
「りーくー」
 中から飛んできたのは、聖だった。
「お帰り」
「ただいま」
 僕は、聖を抱き締めた。
「…向原先輩?」
「ん?」
「え?加月くん?」
 聖が僕の腕から離れた。
「え?本当に向原先輩ですか?わぁ、嬉しいなぁ。陸、向原先輩には高校の時にすっごくお世話になったんだ。」
「え?そうなの?なら親子でお世話になってるんだね、むっちゃん。」

 朝。
「先輩、陸って強引じゃないですか?先輩に迷惑掛けてないですか?」
 キッチンで目玉焼きを作りながら、むっちゃんに話し掛けているのは聖。
 ダイニングテーブルには、都竹くんとむっちゃんがいる。
「聖、代わろうか?」
 僕は火を使っているときに話し込むのは好きじゃない。
「大丈夫、もう終わるから。」
 タイミングよく、トーストも焼けた。
「零はまだ寝てる。」
「一緒に行くんでしょ?」
「うん」
「なら起こしてくる」
「いい、僕が行く」
 なんだろ?なんだかモヤモヤする。
「おはよ」
 タイミングよく零が起きてきた。
「あ、むっちゃん、おはよ。」
 夕べ、零は既に寝ていたから、僕が寝たときに連れてきたことは話したけど、ちゃんと聞いてたんだ。
 慌ただしく朝食を終えると、急いで事務所の会議室へ向かう。
 事務所は目と鼻の先にあるから歩いて行く。
「あ、あの、陸さん、加月くんが陸さんの息子って?」
「あれ?向原くん、知らないの?僕と陸が結婚してること?」
「それは、知っています。でも、零さんと加月くんは兄弟だと思ってました。」
「うん、親子なんだ。戸籍上はね。養子。」
「そうなんですか?」
「そうなんです。」
 零が、嬉しそうに笑う。
「うちの子、可愛いでしょ?」
「はい、加月くんは何にでも一生懸命で、委員会活動も手を抜かずにやってくれていたので助かりました。僕の跡を継いで委員長をやってくれたので、安心して任せられました。」
「委員長って?」
「生徒会です。」
 えーっと、そんな話、聞いてないな。
「聖は生徒会の委員長だったの?」
「なら、僕と一緒だ。」
 零が一気に話す。
「はい、零さんのお名前は名簿で拝見しました。一年から二年に欠けての一年間でしたよね?」
 え?それも知らないよ?
「うん、二年の時はバンド活動に精を出しちゃったから一年間で止めたんだ、中途半端になるからね。」
「凄いですよね。」
「ヒマだったから。」
 零は、僕が思いも寄らないことを成し遂げている。
 僕は高校を卒業することもしなかったのに。
「陸?」
「え?」
「向原くんが、次のアコギLIVEから僕と合流するのかって。」
「次は浜松の予定なんだけど、日程的に平気?チケットはこれから発売になるけど。」
 日付を告げると、零はスマホを手に取り、「ごめん、その日はレコーディングだ」と、断られた。
「零の都合の良い日を教えてくれる?次は京都に行きたいから。」
 むっちゃんの目の色が輝いた。
「むっちゃん、何処へ行きたいか考えといてね?また観光するから。」
「はい!」
「あ、それなら僕も考えておこうっと。」と、零も嬉しそうだ。
 でも、ACTIVEも始動するから忙しくなるなぁ。
 嬉しい悲鳴だからいいんだけどね。
 浜松は、どこへ行こうかなぁ。
 むっちゃん、いつまで一緒に行けるかなぁ…。