ボクがキミを選んだから
「おはよ」
 今朝も零は僕よりも後に起きてきた。
「何で起こしてくれないのさ?」
 そして常套句。
「起こしても起きないくせに」
「陸が優しく…いや、やらしく起こしてくれたら一発で起きられるんだけどな。」
 僕は夕べ、零が何時に寝たのか、どうして遅くなったのか理由を知っている。
「なら、顔を跨いであげようか?」
「いいね」
 嘘つき。
「マサキくん、喜んでた?」
「うん、次は叶うことなら陸のギターでと言い出したから、それは絶対に無理だと言ってやった。」
「零のギターだって充分レアだけどね。」
 零は僕の背後に周り、腰を抱きながら「おはよう」と言いつつ頬にキスを落とす。
「マサキのヤツ、平気な顔して陸の名前を連呼しやがって。」
 僕たちが結婚していることは世間に公表している。
 それでも分け隔てなく付き合ってくれる仲間は沢山いる。
 音楽仲間、芸能関係者、スタッフ…でも、世間一般には受け入れられないことの方が多い。
 マサキくんは同じレコード会社に所属する、大手プロダクションのアイドル系歌手。
 最近は売れっ子で僕をギターに指名してきた。
 零がこれを阻止しているのだ。
 何故ならば、彼はゲイであることを公言している。
「最近はさ、普通にゲイを受け入れすぎじゃないか?僕らの今までの苦労は何だったんだよ。早く公的に認めてくれたらいいのにな。」
 零はそう言うけど、僕の考えは違う。
 今まで通り、隠していていい。
 だってあまりにも公にしすぎてしまったら、ライバルが増えるかもしれないから。
 公表に同意したのは、零は僕のものって知ってほしかったから。
 それにさ、小説とか読んでても、二人でこそこそしている恋愛の方が燃えるし。
「ねぇ、零。」
「ん?」
「零にとって、セックスって、なに?」
「究極の愛情表現。だってさ、やらしい顔、見せちゃうんだからさ。」
 やっぱりそうか。
 この間、聖が言っていた、母とのことが少し引っ掛かっていた。
「ママと…」
「ごめん!何度も言っても言い訳にしかならないけど、陸の代わりだから!」
 何度も聞いた、その言い訳がどうしても僕の中に落ちてこない。
「僕はさ、あきらちゃんが陸を妊娠したときにこの子が僕の運命の人だって思ったんだ。それをもしかしたら履き違えていたのかもしれない。」
 履き違えていた?
「僕が子供だったから。陸が運命の人…じゃなくてあきらちゃんと間違えたのかもしれない。本当に言い訳だ。そして、やっぱり若気の至りもある。」
 あ。
 そうか、零は三歳だったんだから、母親が妊娠するという意味すらも判っていなかった。だから、履き違えたのか。
「何か、判った気がする。ありがとう。」
 僕は零の腕の中で小さく微笑んだ。
 自分でもこんなに嫉妬深かったのかと呆れるくらい、最近の僕は零のことに対して嫉妬深い。零は初めからだけど。
「あのさ、」
 僕は最近得た知識を零に披露する。
「セックスが気持ちいい生き物って少ないらしい。人間は女性に命を懸けて子供を生んでもらうから、快感を与えたって。でもそれだと男の快楽の証明が立たないんだよね。」
 すると、零が口を開いた。
「男は、沢山子孫を増やすために、気持ちいいことをしたいと思わせるためらしい。」
「やっぱり子孫繁栄の手段だよね。」
「それは、建前なんだと思うよ。だってさ、本当の意味なんて誰も分からないんだから。それと、人間以外の生物でも気持ちよくセックスすることもあるかもしれないしさ。」
「なら、」
 その時、零は僕をきつく抱き締めた。
「零?」
「僕は、こんな風に陸を抱き寄せるだけでも気持ちいい。肉欲もあるけど、心の快楽も求めてる…だめ?」
 心の快楽…か。
「うん」
「陸は、哲学者みたいだな。疑問に思ったことはとことん追求するタイプなんだな。」
 言うと、耳にフッと息を吹き掛けた。
「今晩、教えてあげる。」
 陸には嫌な予感しかなかった。

「あっ…んんっ…や」
 身体の感じる部分をもう一時間以上も、擦られたり舐められたり撫でられたり摘ままれたりして、身体の隅々まで敏感になっていた。
「ダメ…ん」
 零は一度もアナルに触れてこない。なのに僕は今、零に挿れてほしいと腰を振っている。
「陸、今夜は慣らしてないから挿れられないよ?」
 え?
「いや…挿れて…」
「でも、解してないし」
「いじわる」
 どこに触れられても身体がビクビクと跳ねてしまう。
 ペニスから溢れた先走りが、アナルまで垂れていた。
「自分で濡らしたんだ、陸」
「いやいや、苛めないで」
 零のを深く突き挿れてグチャグチャに掻き回してほしい。
「零…」
 零の指がゆっくりと挿入された途端、腰が大きく跳ね、バックでイッてしまった。
「わかった?」
 え?
「人間は挿入の前に前戯がある。つまり、挿れるだけがセックスじゃないってこと。両生類でも挿入のないセックス…と言うか、生殖活動があるけど、彼らに快楽があるかは不明だ。学者によって解明されているかもしれないけどな。だから、必ずしも身体を繋がなくても、満足は得られる。でも、そう言うことじゃ、ないだろ?」
 零のキスが雨のように降り注ぎ、陸は声を堪えることが出来ないほどに乱れた。
「陸、好きだよ」
 次の瞬間、零は陸の中に深く深く突き挿れ、直ぐに抜けるギリギリまで引き、昨日を繰り返す。
「んっ…はっ…んん」
 零は抽挿を繰り返しながら考え事をしていた…出来るだけ長く続けるために。
『あきらちゃんに挿れたときも気持ちよかったけど、陸ほど気持ちいい孔はないんだ。僕の形に初めから馴染んでて、吸い付いて離さない。陸の気持ち良さそうな顔もエロくて可愛い。』
 零は最速で、陸の最奥に精を放った。

「陸」
 目を閉じていた陸が、返事の代わりに重そうに目蓋を開いた。
「恋愛のゴールは、やっぱり結婚だと思う。想いが実ってその人と一緒に暮らす…僕と、結婚してください。」
「はい」
 間髪いれず、陸が答えた。
 零も陸も、共に暮らすから良いところも悪いところも目に付く。
 それが愛おしいと思えることが、幸せなのだと、気付いた。
「陸は、僕の命で、全てなんだ。」
「うん」
「今でも、好きで好きでたまらない。昔は不安で何度も何度も身体を繋ぐことで安心を得ていたと思う。今は、そばに居てくれるだけで、身震いする。」
 陸が吹き出した。
「なんだか、小学生みたい、好きな子を目の前にして…」
 零は陸の唇を強引に塞いだ。
 陸の口腔内を全て舐め尽くすかのように舌を伸ばした。
「恋愛のゴールを迎えてもなお、君を愛おしいと思う気持ちに、偽りはない。常に想い、常に嫉妬し、何に対しても許すことが出来る。…いまなら、陸が聖と寝ても………いや、やっぱり無理だ。それだけは許せない。」
「零?」
「お願いだ、陸。聖は、君の分身なんだから…僕を、見捨てないで。」
「何を言って…」
 陸は、一笑に付すことが出来ずにいた。
「聖に抱かれるときは、僕との関係が終わるときだ。」
「いやっ!」
 陸は、必死に零に抱き付いた。
「別れるなんて、考えたこともない。零の…最期の時までそばに居させて?」
「共に…僕の最期の時は、陸も共にと、嘘でもいいから言って欲しい。」
 陸は更に腕に力を込め、抱き付いた。
「うん、そうする。零が死ぬなら僕も死ぬ。その手があったね。」
 零は、もう一度、陸の唇を貪った。