ときめきの授業参観

 さて・・・。
 先日聖が『母の日に手紙を書く』と言っていましたが、書くからには発表するのです、当然『母親の前』で。
 入学式の日、涼さんが聖に着いて行った事はお話したと思うのですが、あとの行事は全部零に任せてくれる…という約束が出来上がっていた事を聖は知りませんでした。
 そんなことからちょっとした事件?が起きたのです。




「おやすみなさい」
 学校の図書室から借りてきた本を読み終えた聖は、大きなアクビをしながら自分の部屋に引っ込んで行ったんだ。
 そうそう、あれから当然ように僕に『おやすみのキス』をねだるんだよね、前は僕がキスしたらすごく恥ずかしがって逃げ回っていたのに。
 そして今夜も当たり前の様にキスをしてご満悦で眠りについた。
 どうしよう…聖まで男の子のこと好きになるようになったら…ママに合わせる顔がないぞ。
 それに僕だって聖の子供に会いたいもの、絶対聖の恋人は女の子じゃなきゃ駄目なんだから…って僕って我侭か?
 聖が寝たのをそばまで行って確認してきた零は、それまでやっていたゲームをセーブもしないで放り出した。
「陸、しよ。」
 うわっ、なんてストレートなセリフ。顔が赤くなっちゃう。
「帰りの車の中で陸寝てただろ?あん時の顔が凄くそそられちゃってさ…我慢出来なかったんだよ、ずっと。」
 えっ、僕寝てなかったよぉ・・・記憶が途切れているけど。
 なんて考えている場合じゃない、零の手が僕を抱き締めに来た。
「聖とキスするなんてずるいぞ。」
 そう言った唇が大人しくなったと思ったらすぐに僕の首筋にキスの雨を降らせた。
「陸は僕のもの…縛り付けて仕舞っておきたいくらい、好きだよ。」
 あぁ、零・・・
「僕も…大好き…愛してる。」
 抱き締めてくれていた腕が僕の肌に直接触れてきた、少し汗ばんだ掌が背中を胸を腹を這い回る。
「部屋に、行こう」
 零の腕は僕の身体を軽々と抱きかかえ、ベッドまで運ばれてしまった…。
 そのときの僕はもうすっかりその気になってて…着ていたものを全て剥ぎ取られてその気になっているところを掌で包まれたとたん、もう頭の中はスパークしていた。
「あ…あっ…」
 おもわず声が出てしまった。
 だって…零は行為の最中、僕に声を出して欲しいって言うし…僕も自然と声が出ちゃうし…って何言ってんだか…。
 零とセックスするのは好き。
 でもセックスが好きなんじゃないよ、僕は零が好きなだけで、その愛情表現にセックスがついてくるだけで…。
「零…もう…待てないよぉ…はやく…」
 おねだりなんかしちゃって、今夜の僕はちょっとヘンだよ…。
「僕も、もう駄目みたい…」
「うん」
「あっ…あぁ…零っ…」
と、その時だった。
「零君…」
 部屋の扉が、開いた。
「聖?ど・どうした?」
 僕らは慌てて足元に落ちていた毛布を引き寄せる。
 しかし僕の息はすっかりあがっていて、言葉が上手く出てこない…なんてったって結ばれたままだし…。
「あのね…」
「ちょ・ちょっとリビングで待ってて、着替えて行くから。」
「うん」
 僕はとっても名残惜しい気持ちで零と離れたのだった。



「ごめんなさい、折角仲良ししてたのに…」
 げほっ、い・いつからそんな風に悟ったような事言うようになったんだよ、前は『えっちなことしたらやだっ』って言っていたのに…まっ、いいか。
「あのね、僕忘れちゃってたの、これ」
 手渡されたのは一枚のプリントだった。


参観日のお知らせ

 来る5月○日、授業参観を実施致します。
 当日は母の日が間近ですので先日の課題で提出して頂いた
『おかあさんへの手紙』を全員に読んでもらおうと思っております。
 是非ともお子さんの成長ぶりをご覧ください。云々…


「なんですぐ出さなかったんだよ。明日じゃないか…僕は駄目だよ、仕事だから。涼ちゃんだって今日の明日じゃ無理だろう…今回は我慢するんだな…」
「嫌だよ…」
 半べそをかいた聖が僕に視線を移す。
「零、僕…行けるかもしれない、行ってもいいなら…」
「陸が?」
「うん…レコーディングなら途中で抜けられる…はずなんだ、僕のとこはもう録りが終っているから。聖、僕で良いかな?」
 零は困った顔をしている。聖は…動揺しているようだ。
「陸が…来てくれるの?」
「うん、あくまでもママの代わり…だからね。」
 ニッコリと聖が笑った。
「しょうがないなぁ、じゃあ陸で我慢するよぉ。」
 顔がぐちゃぐちゃに笑ってるよ、聖。
「1時までに行けばいいんだね、頑張る。」
「絶対来てね、僕一生懸命お手紙読むから。」
「うん」
 零の不安げな様子を余所に聖と僕は『指きり』なんかしちゃって明日の約束を決めたのだった。
 ん?あっ、勿論聖が部屋に戻ってから続きはしました、こほんっ。




 1時30分、ちょっと遅刻。聖は1年3組だから…1階の1番奥の教室だ。
 そっとドアを開ける、何人かの子供が振り返る、当然その中に聖がいて、僕を見て微笑んだ。
 スタジオからそのまま飛んで来ちゃったから髪はぼさぼさのままだったし、ストレートのブルージーンズにピンクのシルクシャツを羽織っただけの服装だったんだ、ごめんね聖、全然おしゃれしてこなかったよぉ。でも、まぁ…今日の主役は聖だからね。
 聖にはちゃんと零が「通学用に」って言って沢山服を買ってあげた中から1番可愛いって僕が思っている、濃紺のショートパンツに真っ白なブラウス、襟にはワンポイントの自転車柄の刺繍がしてあって可愛いんだ、どっちも素材は綿。洗濯機でガラガラ僕が洗っちゃうからねぇ。(零が洗っても同様)
 でも…ラッキーだったなぁ、僕が授業参観に来られるなんて。
 授業参観って…確か終ってからお母さん達が集まって現在の学校での様子とかを聞く…ってパパが言っていたような気が…。
 まっ…いいか、それは零の役目だもんね、今日の僕は聖の『お手紙』を聞きに来たんだから。
 僕の目に映っているのは聖だけ…。




「でねでね、皆陸の事見て目がハートになっちゃってるんだよ、先生なんて声がいつもより高くなっていたし。」
「分った分った、で?」
 夜、ちょっと遅目の帰宅だったけど、聖はいつもの様に図書室で借りてきた本を読みながら僕らを待っていた。
 どうやら聖が本を借りてくるのは、『読みたい』っていう欲求もあるらしいけど、『夜更かしの口実』にもなっているみたい。そのうち時間を決めないといけないな。
 で、「2人で一緒にお風呂に入ろう」って思っていたのに、聖が起きていたから断念せざるを得なくって、零が仕度していたらずーっと後を追いかけて昼間の話しを延々と続けているんだ。
「陸が帰った後でね、先生とお母さん達が僕のとこに来て、『陸ちゃんって聖君の何?』って問い詰められちゃったよぉ。」
 それはそれは、毎度のことながらご苦労様だね。
「だから『零君の恋人だよ』って教えてあげた。」
 …ん?…
「せ・聖っ!?」
と、僕が声を発したのと零が聖をぎゅって抱き締めたのはほぼ同時だった。
「う゛ぞでず〜ぐる゛じい゛〜」
「なんだ、嘘なの?」
 零はとってもがっかりした様に聖を離した。
「やっと人前でいちゃいちゃ出来ると思ったのにな…」
 ぷいっとそのままバスルームへ行ってしまった。
「零君、怒っちゃった?」
「違うよ、照れているんだってば。」
 そう、多分零はものすごく嬉しかったんだと思う。
 零にとって恋愛とはオープンに…という思いがどこかにあるらしいからこれを機会に…っていう気持ちがあったはずなんだ。
 でも…僕は困るよ。
 オープンにする事で…いつかのような事が無いとは言えないでしょ?
 だから…今のままでいたい。
「本当はちゃんと『零君と陸は幼なじみで今一緒にお仕事しているから僕と一緒に暮らしているんだよ』って言ったんだよ。」
 僕のひざに子猫の様にすりすりと擦り寄って来て甘えている。
「分ってるって。もう遅いから早く寝なさい。」
「うん、おやすみなさい」



「…んっ…」
 ベッドの上に座り込み、僕達はおやすみのキスを交わす。
 当然ディープなキスだよっ、ふふん。
「聖、喜んでいたな、良かった…今度は僕が行ってみようかな。」
「うん、行って見てよ、聖とっても可愛いから。ほら、髪の毛が茶色でふわふわだから目立つでしょ?でも全然誰もそんなこと気にならないくらい可愛いんだよ。他の子なんて足元にも及ばないな。…ねぇ、零…聖には大学まで行かせてあげたいんだけど…良いかな?僕頑張って仕事するから。聖には一杯勉強して欲しいんだ。」
 僕は勉学より愛をとった、それを後悔なんてしていない。
 でも聖にはちゃんと環境だけは作ってあげたい。
「陸…それってさぁ…『親ばか』じゃないか?」
「なんで?」
「聖の将来は聖に決めさせれば良いんだよ、何も陸が…」
「お金で困ったら可愛そうでしょっ」
 ぎゅっ…ってさっきの聖みたいに僕のことを抱き締めにきた。
「可愛いのは…陸のほうだよ。聖よりずっと可愛い…」
 そう言われて僕はもう腰砕け状態に陥っていた。




「ところで聖の宿題、どんな内容だったの?」
「えっ?」
 翌朝、零に聞かれて僕は動揺した。
「それが…その…」
 僕の口からは言えない…
「なぁ、どんな内容だったの?」
って言いながら、零の手には作文用紙が握られていた。
「って見たんじゃないかっ」
 ニヤニヤしている零。

ママへ                               

いつも、いっぱいめいわくかけてごめんね。
だいすきだよ。
ぼく、いいこにするからママもいいこでいてください。
もうすぐおたんじょうびだね、おめでとう。
ずっとそばにいてね。
やくそくだよ。

「これってどう見ても陸のことだよなぁ…」
 そうなんだよ、聖ってばママへの手紙なのにどうして…
「あっ!もしかして聖、はじめっから僕が授業参観に行くように仕組んだんじゃ…」
「ばっかだなぁ、今頃気付いたの?僕はすぐに分ったよ、いつもちゃんとプリントをカバンから出してから部屋に入るだろ、聖は。なのにわざわざ授業参観のだけ、前日のしかも夜中だよ、分り切った事だよ。だから僕は行くって言わなかったんだ、無理すれば行けたんだけどね。」
 意地悪っ、知っていたら教えてくれれば良いのに。
 零の腕がスッと伸びてきて僕の体を抱きしめた。
「いいじゃないか、聖があんなに喜んではしゃいでいたんだから。…ちょっぴり妬けちゃったよ、僕としてはね。」
「馬鹿」
 僕が愛しているのは零だけなのに。



 そして僕はそっと零の唇に自分の唇を重ねた。





 後日談…。
「聖は野原裕二の隠し子」っていう噂が何故か町内を駆け巡っていた。
 僕が聖の学校に行ったからだそうだ、『兄の責任』?ばかばかしい…。
 まぁ…『兄』はあっているんだけどね、実際。
 でも…パパの子は僕だけなのっ。