どうでもいいんだけど
 それは、先月の話だ。
「こんばんは!零くんに質問です。陸くんって男っぽいと思いますか?色っぽいと思いますか?」と言うメールが、零の深夜のラジオ番組に届いた。
「うーん、どうだろう?僕には可愛いっていう風にしか言えないんだけど。陸は可愛いよ、パンツ一枚買うのにも一時間かけるからね。」
「え?そうなの?」
 そこに食い付いたのが剛志くん。
「でも、確かに可愛いよな。弁当は必ず好きなものを残しておいて食うもんな。」
 二人とも僕が現場にいないのをいいことに好き勝手言っている。
「僕らじゃ埒が明かないから皆の意見を聞いてみたいな。アンケート調査をしたいと思います。どんな風に思っているかも書いてください。」


「で?僕が来る日に結果発表なわけだ?」
 僕は不機嫌である。
「僕は僕であって僕なりに男っぽくもありたいし、強くもありたい。色っぽいとか嬉しくない。」
「はーい、陸の意見はどうでもいいでーす、では皆さんのメールを読みたいと思います。『こんばんは、零くん。早速ですが私は陸くんは色っぽいと思います。ギターを弾いているときの恍惚とした表情、メンバーを見つめる顔、零くんの背中に送る視線、どれを取っても色気しかありません。』お、嬉しいご意見ありがとうございます。次はこんなメールが届いています、『零くん、こんばんは!ステキな企画ありがとー!陸くんは男っぽいと思います。ライブ終わりに下手へ引き上げていくときに大股で歩くんですけど、その歩き方が刑事ドラマの刑事さんみたいでカッコいいんです。零くんはステージにいるから見られないもんねー。』ざんねーん、知ってますー。」
「今夜はずっとメールを読んでいくの?」
「まさか!スタッフからクレームが届いていますからね、折角集計したのにメールを読んでるのかーいって。」
 え?嬉々として自分でやっていたのに?
「もう少しメールを読んでみようかな?『MCの時、黙ってタオルで汗を拭く姿がセクシー』『足首が好き』『ギターを弾く指の動きが好き』『曲終わりの顔を上げたときにニッコリ笑うんだけど、この笑顔が最高に美人さんです』『髪をかきあげる時の項が好き』と、どこが好きかになりつつありますが、集計結果をお伝えします。」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!今のメール、ほぼほぼ色気しかないじゃん!」
「はーい、陸の意見はあとから聞きまーす。では、」
 スタッフと事前に打ち合わせていたのでタイミングよくドラムロールが流れた。
「陸は意外と男っぽいが、多数意見でした。」
 え?
「ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔をしていますが、皆さん好きとは書いてくれていますが、色っぽいとは書いていないんです、その後に必ず『でも、腕の筋肉が動くところとかやっぱり男っぽい』『曲の始まりのところの最初に音を出す時の顔は男の顔』『最近はデビュー当時の線の細さがなくなってガッシリとしてきたから男臭さがある』『陸くんに抱かれたいと思えるほどに男の顔です』だめです。『腰つきが男!エロい』そうかな?『零くんがステージで倒れたときに真っ先に駆けつけた動きが男らしかった』だそうです。」
「あ、そ、そうなの?皆さん、ありがとうございます、頑張ります。」と、訳のわからないことを言っていた。
「でも、陸はあげません。」
 零が余計な一言を付け加えてしまった。
 その途端、メールの着信音が鳴り止まない。
「あーっ!ごめんなさーい!夢や希望を打ち砕くような発言!」
 慌てて零が取り消したが、それでも変わらなかった。
 すると、ブースの外から手招きされ、視線を移すとそこには『零くん、陸くん、お幸せに』『公共の電波でみせつけないでー』などの手書きの文字があった。
「零、違うみたい。激励のお言葉を頂いたようです。」
「え?そうなの?みんな肯定派?陸は男っぽいけど嫁でもOKと?」
 再び零の失言だったようで、メールの着信音の大合唱。
「え?え?何が導火線かわからないんだけど?」
『嫁は零くんやろ!』『零くん料理上手じゃん、嫁に行きなさい』と、僕じゃなく零を焚き付けるコメントだった。
「わかった、よーくわかった、僕が陸のもとに嫁げば問題ないんだね、了解!」
 零がうまく乗ってくれたお陰で、なんとか乗りきった。
「みんな深夜なのに元気だね。」
 今夜の零は失言大王だ。
「零が変なことするからだよ。」
 そう、くだらないアンケートなんか取るから。
「陸は今、くだらないアンケートなんかと思ってます…リスナーさんはそんな風に思ってないと確信してるんだけど?だってさ、うちら皆、ちっちゃい頃の陸に会っているから、陸は可愛い、守ってやらなきゃならない存在だと思い込んでる。でもファンの皆は陸をちゃんと大人の男として見てくれている。世間はそうなんだよ。うちらと陸の偏見で、陸は可愛いを打破しなきゃ。」
「あの…僕がいつ、自分のことを可愛いと言いましたか?」
「言わないけど、思ってるだろ?」
「思ってない!」
「はいはい。では、陸のアンケートについてはこれでおしまい。次は誰のアンケート取ろうか?初かな?初と僕、どっちがおっさんか?とかね。」
 この発言が、またまたリスナーの心を奪った。



「零っ!なにやったんだよ?」
 初ちゃんがラジオの中からご立腹だ。
 今夜のラジオは初ちゃんが当番なのを見越して、先週の発言だ。
「えっと、初と僕はどっちがおっさんかについてですが、先週より多くのメールをいただきました。珍しくハガキまで届いていました。流石、世界を股に掛けて活躍している初だね、初がおっさんな訳ないですというメールが多数です…が、僕とどちらがという件では9割が初との回答です。」
「まじかよ」
「まじだよ、ほら。」
「…本当だ。カッコいいけどイケメンだけど、零くんと比べたら初くんの方が、ライブでのMCとか、ラジオでの発言とかはおっさん臭いです…まじかよ。」
「その辺ですね、初がおっさん臭いのは」
 初ちゃんがこの後エステに通ったとかジムに通ったとか噂になったけれど…真相は初ちゃんの名誉のために伏せておきます。
 はい、初ちゃんは決しておっさん臭くはありません。ただ単におじさんなだけです。
 次の零のターゲットは、誰になるのだろう?