| 『ところで、零に質問が届いているんだけど。』『何?』
 『えっと、【零くんこんばんわ。突然だけどしっつもーん、です。零くんはテレビや雑誌ではぴっちりしたパンツを履いているけどライブでは絶対に履かないよね?どうして?】だって。そういやぁ、そうだよな?ちなみに今日はブルージーンズにベージュのティーシャツだけど。』
 『何でって・・・知らないよ、陸が決めてんだから。』
 『えっ?うちのスタイリストって陸?』
 『何?隆弘知らなかったの?』
 『知らなかった。』
 『いつもマネージャーの林さんと陸がチェックしにデパートとか行っているんだよ。で、気に入った物があれば買って来る。』
 『だからうちの衣装バラバラなのか?』
 『さぁ?陸に聞いて。
 
 
 …零…そんな事言って、覚えてろよ。
 
 
 『零はどっちが好きなの?』
 『どっちも、別に拘ってないし。だけど隆弘だってちゃんと似合ってるし僕は陸を信頼しているからね。』
 『ってことはさ、陸の衣装は陸が選んでいるのか?全然自分のことわかってないじゃん。』
 
 
 えっ?わかってない…って?
 
 
 『陸はもっと可愛くってふわふわの衣装じゃなきゃなぁ。黒とかグレーばっかりじゃん、駄目だよ、あれじゃあ。』
 『隆弘、そんなこと言ってて陸が聞いていたら絶対怒るよ。』
 
 
 ご名答。明日は口を聞いてやらない。
 
 
 『えっ、陸ってラジオなんか聴く
    ?』
 
 
 聴くよ〜…零が出ているし。
 
 
 『聴いてるだろ?悪口チェックしているみたいだよ。』
 『なんか小姑みたいだな。』
 『隆弘、勇気あるなぁ。陸にそんなこと言うなんて。僕は言えないな、怖くて。』
 
 
 「怖いって、なんだよー。」
 思わず声を上げてしまった。
 「どうしたの?陸?」
 聖がリビングのソファでゲームをしている横に腰掛け、僕は携帯ラジオを持って来てイヤホンをしながらラジオを聴いていた。
 ラジオ番組は零がメインパーソナリティ。
 あとの4人は順番に準レギュラーとして出演する。
 今夜は隆弘くんが出演の番だ。
 「零が僕のこと怖いって言ってる。」
 「うん。」
 「う・うんって?」
 「陸怖いもん。」
 「怖い?」
 「怒ると怖いから、零くんと『怒らせない様にしよう』って言っているんだ。」
 「そ・そんなに怖い?」
 「かなり」
 「うわぁ〜」
 ショック。
 「そう言えば…どうして聖がまだ起きているの?もう深夜の1時回っているじゃない。」
 「はぁ〜い、ごめんなさい。明日お休みだからついつい…。今寝ます。」
 「まったく」
 最近聖は口も達者になってきた。
 僕じゃ太刀打ち出来ないときもある。
 急いでゲームをセーブして、電源を切る。
 「歯は磨いた?」
 「さっきお風呂から出た時に磨いた。」
 「ちゃんと食後すぐに磨かなきゃ虫歯になって苦労するのは聖だからね。」
 「はーい、ごめんなさい。」
 「トイレは?」
 「今行く。」
 「もう…」
 
 
 『じゃあ、今夜はこの辺で。おやすみなさい。』
 『おやすみなさい。』
 
 
 「あー、終ってるー」
 聖を叱っていたら番組が終ってしまった。
 あれ以上文句言われて無かったかな?
 「おやすみなさい」
 トイレから出てきた聖は素直に部屋に入って行った。
 「聖?」
 扉が開く。
 「何?」
 「零まだ帰ってこないし、今夜は一緒に寝ようよ。」
 「うん」
 昨日よりほんの少しだけ大きくなったような気がする聖を抱き締めて眠るのは久しぶり…って思ったんだけど。
 聖が先にベッドの中でうとうとしている所にそっと潜り込み腕を伸ばした瞬間、
 「嫌」
 って背を向けられた。
 「なんで?」
 「だって、僕赤ちゃんじゃないもん。」
 「赤ちゃんじゃなくたって可愛いから良いじゃない。」
 「だって…」
 僕は強引に背中から聖を抱きしめる。
 「あぅ…」
 聖の口から切なげな声が漏れる。
 「…そんなに嫌なの?」
 「違う…けど…恥ずかしい。」
 身体をもぞもぞと縮める。
 「もう、聖の意地悪。だったらあっちで寝る。」
 「嫌」
 僕の腕を握り締める。
 「じゃあ、おいで。」
 僕は腕を広げる。
 おずおずと聖が僕の胸に顔を埋める。
 「聖、好きだよ。」
 「僕も陸が1番好き。」
 「ありがと。」
 「本当だよ。」
 「うん。」
 「ずっと一緒にいてね。」
 「聖が居てくれるって言うならずっと一緒だよ。」
 「約束してね。」
 「うん。」
 僕の返事を聞いて安心したのか聖はすやすやと寝息をたてていた。
 これで少しは『怖い』っていうイメージは減ったかな?駄目かな?
 
 
 
 
 
 朝、目覚めてキッチンへ向かうと、不機嫌な表情の零が朝食を準備していた。
 「なんで聖と寝てんだよ。」
 また?
 「嫌だって言っただろ?陸は僕だけのもんだから。」
 「聖に嫉妬してどうするの?」
 「陸は知らないから、聖が…」
 「零くんっ」
 聖が部屋から飛び出してきた。
 「僕、約束したのに。」
 零が俯く。
 「ごめん。」
 「零くん…僕と陸と、どっちが好き?」
 「2人とも好きに決まっているだろ?」
 「どっちが1番なの?」
 「1番なんて決められない。」
 「陸は?」
 「え?僕?」
 「うん。僕と零くん、どっちが1番。」
 「1番は…」
 決まっている、けど…。
 「零が1番。だって零のことずっと好きだったから。聖はまだ7年しか知らないし、だからこれから1番になるかもしれないでしょ?」
 「…僕は…誰も1番好きになってくれないの…。こんな目の色だし、こんな髪の毛だから…気持ち悪いんだって…だから零くんも陸も1番にはしてくれないんだね…。」
 「違う。」
 僕は聖の側に行き抱き締める。
 「馬鹿だなぁ。聖のこと1番好きになってくれる人はまだ聖に巡り会っていないんだよ。絶対居るから、聖のこと大好きだって言ってくれる人。だからその人に会うために一生懸命努力しなきゃいけないんだよ。」
 「巡り会っていない…の?僕は大好きだけどその人は僕のこと、大好きだって一番だって思ってくれないの?」
 「それは聖の努力次第だよ。」
 「努力…」
 聖の身体から腕を解き、瞳を覗き込みながら話す。
 「あのね、どこの家でもお父さんはお母さんを、お母さんはお父さんを1番好きなんだよ。だから結婚したいって思ったんだし、それが素敵だって僕は思うんだ。大体、子供が1番になってしまったら沢山子供のいる家はどうするの? 家だって…聖だけじゃないかもしれないしね。」
 「僕だけじゃない…って弟ができるの?」
 「いや、例えば…なんだけど。」
 「僕妹がいいかなぁ〜。」
 聖、聞いてない。
 零がキッチンから顔を出してニヤニヤ笑っている。
 「どうするんだ?陸。もうあきらちゃんには頼めないぞ。」
 「零っ、言って良い冗談と悪い冗談があるよ。」
 零が聖と視線を合わせる。
 「やっぱり怖いよな。」
 だ・だって〜。
 なんか僕だけ一生懸命になって馬鹿みたいだ。はぁ・・・。
 「あっ、そう言えば零、夕べのラジオで衣装のこと文句言っていたね?なんだって?衣装は全部僕が考えているから…」
 「ごめんっ。」
 「いいよ、ライブ用のパンツも身体のラインにぴったり合ったものを探してくるよ?」
 「だから、許して…」
 「今度僕がラジオ出た時に突っ込まれるんだろ?」
 「その…ごめんなさい、僕が全部いけないのです。」
 「だけどどうして駄目なの?」
 「言わないと、駄目?」
 「聞きたい。」
 「う…その…」
 零がもじもじとしている。
 「痛い…んだ。」
 「痛い?」
 聖と僕が一緒に疑問を口にする。
 「ライブの時の陸、色っぽいから…その…わかっちゃうし…痛くて。」
 「零くんえっち〜。」
 えっ?えっ?
 「そう言うこと。」
 零が真っ赤な顔をして締めくくろうとした。
 「わかんない…」
 僕、頭悪いのか?
 「わかんないって……だから…勃起しちゃうんだってば。」
 「ば…」
 やだよ、全く…。僕まで赤くなっちゃう。
 「僕…わかったよ。零くんと陸はやっぱり大好きなんだね。」
 今度は零と僕が視線を合わせた。
 「だって仲良しだもん。」
 「うん。聖にも仲良く出来る運命の人がいるよ。
 …大体、早いんだよ、僕だって16才までフリーだったんだから。」
 ニッコリ微笑む聖、僕はそれを肯定ととったんだけど…。
 
 
 
 「だから、悪かったって言ってるじゃん、なぁ?…愛してるよ、陸。」
 僕は目を吊り上げて怒る。
 「隆弘くん、言っておくけど僕は零の恋人、解っているよね?だったら軽軽しく愛しているなんて言わないで。それと小姑発言だけは絶対、許さない。」
 「わかったわかった。」
 まるで子供をあやすような手つきと口調で、僕を抱き寄せ、背中を撫でる。
 「またそうやって馬鹿にしてるっ。」
 素早く身体を離す。
 それを合図にした様に、隆弘くんが背後を振り返った。
 「陸、今日のステージ、あれ着てよ。」
 あれ…って…
 「あの、赤い奴?」
 「うん。」
 「だって…」
 「王子様みたいだろ?」
 「みたいって…」
 言葉が出てこない、だってその衣装は真っ赤なブラウスで胸にフリルが一杯付いているんだ。丈は太ももが半分隠れるくらいでウエスト部分にヒモが付いていて後で結ぶようになっている。パンツは…白。流石にタイツじゃないみたい。合皮かな?
 「…ビジュアル系の人みたい…」
 「おっ、良い事言うね、うちもその線で行こう。…いや、個性を出して行ったらどうだ?」
 ニヤッと笑う。
 「絶対嫌。」
 「似合うって、絶対。」
 「嫌だったらいやぁっ。」
 
 
 「ごめんっ、許せ。な?」
 「酷いよ、零…1度も僕の味方してくれなかった。」
 「だって…かわいかったよ、陸。」
 「嬉しくないっ。」
 結局僕は隆弘くんの衣装を着させられた。ステージの上では恥ずかしくって1度も顔を上げられなかった。
 「みんな陸に釘漬けだった。」
 「うそだよ、笑っていたもん。」
 「そんなこと無いって。」
 「い…」
 いいや、笑っていた…と続けるつもりだったのに、あまりにも甘いくちづけが僕を酔わせてくれたので、今夜は勘弁してあげることにした。
 
 
 だけど零の次のステージ衣装はぴっちぴちの革のパンツに決定だからね。あとで泣くなよ。
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