家族

「零くんはお兄ちゃんじゃないんでしょ。」
 まだ、りっくんが――陸くんって言いにくいからさぁ。りっくんって呼んでた。――お隣にいたとき、教えてもらった。
 零くんには内緒だよって。どうしてだろう。
 それに、りっくんはお兄ちゃんって、僕よく分からない…。
 ママは1度も僕のこと名前だって、呼んでくれなくて、だからどうしても「ぎゅっ」て、して欲しくって。
 でも僕を「ぎゅっ」てしてくれたのはりっくんだったんだ。どうしてだろう。

 昼間、零くんと陸がいないときは、家政婦さんっていう、おばさんがいるんだ。おばさんがいっつも「聖ちゃんのお兄ちゃんは有名人なんだよ。」って言う。
 なに?有名人って?僕は何でも良いんだ。ただ、いつも零くんが一緒にいてくれれば。
 おうちに居た時は、パパ、全然遊んでくれなかったし…パパは僕が嫌いなんだ。いつも怒った顔して僕を見る。
 でも、零くんは笑ってくれる。僕も一緒に笑ってて良いって。
 陸はね、帰ってくるとすぐに「ぎゅっ」てするの。恥ずかしいじゃないか。
「今日は遅くなるから先に寝てるんだぞっ」
て、つまんない、保育園のお話とか、一杯一杯話したいこと、あるのに。
 それにしても…陸はお隣にいたときより今のほうが楽しそうなんだ。
 陸も零くんのこと、好きなんだって。僕どっちが零くんのこと、好きかなぁ?
 零くんだって、陸のこと好きなんだよ、「ぎゅっ」てしてるから。だから陸は「綺麗」になってくんだって。難しいなぁ。
 僕も「綺麗」になってくのかなぁ。
 あっ、まずいっ、考え事していたら零くんと陸、帰ってきちゃった。早く寝なきゃ。
 急いでベットに潜り込んだけど、二人は一緒に寝てるんだ。つまん無い、僕だけ仲間はずれ。
 ギィーッてドアが開いて、零くんが来た。一生懸命目を閉じていたけど、
「寝たふりしてるだろ。」
って、鼻をつままれた。零くんは何でもお見通し。
「ねぇ、僕も一緒に寝たらだめ?」
 …なんでそんなに困った顔するの?…意地悪。
「いっつも、陸とばっかり、ずるいよ、零くんは僕のお父さんでしょ、いいでしょ、ねぇ。」
 ちょっと意地悪しちゃった。
「なに、聖、ヤキモチ妬いてんの?仕方ないなぁ。」
 そう言って「ちゅっ」てキスしてくれた。きゃーっ。
「待ってて、着替えてくるから。」
 いいの?本当に一緒に寝てくれるの?
 僕はその夜、零くんに「ぎゅっ」てされて一緒のベットで寝たんだ。

 目を開けないで、手だけで零くんを探した。そんなに大きなベットじゃないのに、いない。
 どうして?一緒に「おやすみなさい」したじゃないか。
 急に不安になって部屋を出た。
「あぁっ…零っ」
 ほらまた、陸の声。夜中に目が覚めるといつも聞こえる。
 だから嫌なんだ。陸は好きだけど、嫌い。すぐ零くんを独り占めしようとする。
 二人の部屋のドアを開けた。二人ともびっくりしていた。
「零くんのうそつきっ、今日は僕と一緒に寝てくれるって言ったのに。」
 泣くつもりなんて無かったのに涙が出てきちゃった。
 そうしたら零くんより先に、陸が素っ裸のまま飛んできて僕をいつものように「ぎゅっ」て、してくれた。
「ごめん、聖ちゃん、僕分かっていたのに、ごめんね。」
 陸、泣いてるの?
「毎日じゃなくてもいいんだよ、だから少しくらい僕のお願いきいてよ。」
 陸が腕に力を入れて「ぎゅっ」てするから、僕痛かったけど、言えなかった。
「そのときは僕も一緒でいい?僕は聖ちゃんより弱虫だから、一人じゃ眠れないんだ。」
「聖、陸がね、聖と一緒に暮らしたいってそう言ったんだ。」
 後ろから僕の頭を「ぽんぽんっ」てたたきながら言った。
「陸、一緒でも良いけど、変な声出さないでね。」
 陸が「やだっ」て、言って真っ赤な顔をした。
 …嫌なら止めれば良いのに。

「聖、どうして『陸』って呼ぶようになったんだ?」
 零くんが不思議そうに僕に聞いた。
「零くんが呼んでたから。」
って答えた。
「ほらみろ」って陸が言う。
 違うんだ、本当はね、『陸』って呼んだら、僕にも零くんの前でする顔、見せてくれるかなって、思ったから。