「俺は許さないぞ。」
リビングに入るなり言われた。
零ちゃんと聖と3人で暮らすようになってしばらくしてからだった。
パパ――野原裕二って俳優なんだ――が訪ねてきた。
「家からだって仕事に行けるだろう。それに、俺に黙って高校辞めたりして、何考えているんだ?」
「僕は僕の思う通りにやりたいんだ。」
あ〜ぁ、どうして僕の保護者は僕の前では怖い顔をするのだろう。以前の零ちゃんがそうだった。
「怒ったってだめだよ、僕決めたんだから。」
「何を、決めたんだ?」
パパの瞳の色が変わった。
「ねぇ、パパはママのことずっと好きだったんでしょ…僕も零ちゃんのこと…」
「聞きたくない、そんなこと。」
耳を塞いで頭を抱え込み、小さくうずくまった。
「陸をそんな風に育てた覚えは無い。陸には平凡で幸せな人生を歩んで欲しい、そう願って今まで頑張ってきたのに…。」
くぐもった声が、言う。
「平凡で幸せって何?」
僕はパパに意地悪している。
18歳でたった独りと決めた人と別れなきゃならなくなって、どんな想いで今までいたのだろう。
僕のことを必死で育ててくれたパパ。感謝しているけど、でも…。
「零君はたとえ半分だって血のつながった兄弟だ、そんなこと許されない。」
「兄弟じゃなかったら、いいの?」
パパの表情が益々険しくなる、ごめん、わがままで。
「お前はまだ16歳だ、早すぎる。」
「パパだって16歳でママと婚約してた、同じだよ。ねぇ、ちゃんと僕の気持ち聞いて。確かにパパに嘘ついて家を出たことは反省している。でも、零ちゃんと一緒にいたいんだ。彼を…愛してる。」
見る間に雲って行く顔を見て胸が押しつぶされそうになった。あと一言僕が何か言ったら泣き出すのではないかと思うような目をしていた。
「俺だって陸を愛しているよ。」
思ったより穏やかな声が戻ってきた。
「うん、分かっている、パパが一杯一杯僕のこと愛してくれたこと、愛してくれていること。零ちゃんだってそれは分かっているよ。」
「ただいまぁ。」
あっ、聖の声、買い物に行っていた二人が帰ってきた。
「ちょっと待っててね。」
さっき、零ちゃんの携帯に電話したから急いで帰ってきてくれたんだ。
僕はソファから立ち上がり玄関へ向かおうとした、でもパパに腕を掴まれて引き留められた。
パパは僕の腰に左腕を回して右手で二の腕を掴んだ。
「こんなに痩せていたか?顔だってその辺にいる高校生とは比べ物にならないくらい小さいし…。」
パパの胸に顔を埋めたら懐かしい匂いがした、昔よくここで泣いていた僕。でも今は泣かないよ。
「零ちゃんと一緒に歩いて行きたい、聖だっている、僕頼りにされているんだよこれでも。仕事だって楽しいし、今自分のいる場所が大切なんだ…ごめんね。」
パパの大きな手が僕の背中で震えている。
「陸の子供には会えないんだ…。」
寂しそうな声だった。
「パパが作りなよ。」
「馬鹿」
パパの手が僕から離れた。
「陸…、」
表情が戸惑っている。
「うん、パパが考えていること多分当たっている。」
「…そっか…」
バタバタとした足音が近づいてくる、でも途中で引き留められたのだろう、「なんでぇ。」と、文句を言っている声がする。
静かにリビングの扉が開いた。
「すみません、遅くなって。」
零ちゃんだった。
パパがとっても驚いたように目一杯瞳を大きく開いた。
「涼…に、あの頃の涼に似てきたね。」
すごく小さな声だったので聞き逃すところだった。
「陸が、あきらに似ているって、気付いてるか?最初は俺の方に似ていたけど最近どんどんあきらに似てきた。だから俺は陸を手放したくなかったのかもしれない。たったひとつ自分の守れるべきものが陸だったのかな。」
さっきまでの険しい表情は無くなっていた。
「結局、あきらと涼は離れられない、のかな。」
そしてほんの少し微笑んだ。
再びリビングの扉が開いた、今度は聖だった。ドアノブにぶら下がるようにしてパパの方を向いた。
「陸のパパ、こんにちわ。」
キラキラと輝く瞳に警戒心を捨て去った顔つき、誰が見たって愛くるしい(と、後で零ちゃんに言ったら「それは身内の欲目だ」と言われた)。
「聖君、あっちにいたときよりずっといい顔してるな。」
「うん、零ちゃんと僕が一杯愛してるから。」
ちょこちょこと走り寄ってきた聖を抱き上げる。
「この子は零と僕の子なんだよ、ね、聖。」
「うんっ。」
こいつ、分かって返事しているのかな?
パパが立ち上がって背もたれにかけてあったコートに袖を通した。
「帰っちゃうの?一緒にご飯食べて行きなよ、どうせ帰ったって独りなんでしょう?おじいちゃんとおばあちゃんは離れに引っ込んじゃってるし。」
「あのさ、陸、親に向かって「どうせ」って言葉は無いだろうが。大丈夫だよ、陸に心配してもらわなくったって、陸の代わりは沢山いる。もう、あの家に陸の居場所なんて無いよ。」
そう言い残して扉のところまで歩いて行って、ふと、振りかえった。
「…愛した人と一緒にいられないのがどんなに辛いか、自分が1番よく知っていたはずなのにな。」
多分パパは泣いていたと思う、だって急いで背中を見せて扉の向こうに消えたから。
「パパ。」
僕は聖を抱いたままあわてて後を追った。
「セックスするときは、その…よく分からないんだけど、病気とか気をつけろよ。」
「うん。」
「『せっくす』ってなぁに?」
僕は笑って聖の鼻をつまんだ。
「パパ、聖の前で言わないで。この子なんでも興味を示すからさ。」
「陸もそうだったよ。いろいろ大変だったなぁ…全部いい想い出だな。」
玄関にたどり着いて僕はパパに靴べらを渡す。それを黙って受け取り靴を履き、又黙って僕の手に渡す。
なんてことは無いことなのに胸の辺りが『ギュッ』って締め付けられた。
「たまには家に顔出せよ、父さんと母さんが待ってる。」
「僕の居場所、無いんでしょ。」
パパが目を細めて笑った。
「じぁ。」
後ろを向いたまま片手を上げて玄関のドアを出て行った。
パタン。
僕達のベットルームのドアを閉める。先にベットで待っている零ちゃんに声を掛けた。
「…お待たせ。」
「聖、寝た?」
「うん。」
あぁ、この瞬間が一番恥ずかしい。
「裕二さん納得してくれたのかな…僕は何も出来なかったけど。」
「うん、『病気に気をつけろ』って言われた。」
ぺロっと舌を出して笑った。
「陸…」
零ちゃんが僕を手招きするように両手を広げている。僕はその誘いに素直に応じる。
「ごめん、僕が陸を好きにならなければ裕二さんを悲しませることも無かったのにな。」
「そうしたら僕が悲しむでしょう、零ちゃん。」
両腕を首に回して唇をむさぼった。
唇を離した零ちゃんが
「今夜もしていいのかな?」
と、遠慮勝ちに聞く。
「なんでそんな事聞くの。おかしいよ。」
そう言って零ちゃんのパジャマのボタンに手を掛けた。
「今ならまだ、引き返せる。」
僕の手を止めるように手を重ねた。それを振り払ってボタンを外しつづける。
目の前に零ちゃんの厚い胸が露わになる、僕は夢中で左手側の乳首を口に含み右手の人差し指と中指の腹で右手側の乳首をなぶった。
零ちゃんが僕の髪を掴んだ。
「りくっ…あぁっ…」
零ちゃんが仰け反る。
しばらくはそうやって零ちゃんの乳首を味わっていたけど、喉の奥のほうで別のものを欲しがっている自分に誘われるように唇を離して、パジャマのズボンを引き摺り下ろし零ちゃんのペニスを口にした。
フェラチオの仕方は零ちゃんに教わった。この1ヶ月とちょっとで少しは上手くなったかなぁ…目で零ちゃんの顔を追う、ねぇ、気持ちいい?
零ちゃんの目が僕に言う、うん、陸上手くなったねって、本当かな?
僕ももう、我慢できないよ、目で訴える。着ていたティーシャツを脱ぎ捨てて零ちゃんの顔の上に跨って自分のモノを押しつける。最初の頃は恥ずかしかったんだよ、これでも。
零ちゃんが僕のペニスを咥えてくれて、あぁ、この時点で僕の頭の中は真っ白、もうセックスのことしか考えていなかった。
零、零…愛してる。
下半身の快感と上半身の疼きと、口の中で硬度を増して行く零ちゃんのペニスと。
「れいっ…入れて…あぁ、欲しいんだ、これが。」
爆発寸前まで熱く滾っている愛しいモノ。
言い終わる前に組み敷かれた、そして僕の足を軽々と持ち上げて腰の下に膝を滑りこませてそれをアヌスにあてがって、グリッと・・・。
「あっ…あっ…」
グリッグリッ…
零が僕の奥深くまで侵入してくる。
根元まで押しこんで
「陸、好きだよ。」
そう言って動き始める。いつも、そうだね。
僕達はいくら他の動物より脳が発達していたって同じ動物だから、本能に逆らえない、お互いに快楽を求める。
零ちゃんが何度も腰を打ちつける、僕は腰を振りつづける。僕の肉壁に零ちゃんのペニスが擦り付けられる。
「あっ…んぅっ…はぁっ…」
堪えても漏れてしまう喘ぎ、聖には出来るだけ聞かせたくない。
「はっ…はっ…りくっ…イ・イクッ…」
「ちょ…っと、まって…ぼく…まだっ…」
…間に合わなかった。零ちゃんは一人だけ僕の中に熱いものを放出した。なのに、それを感じたとたん僕も…。
荒い息の下、お互い顔を見て微笑んだ。
「やっぱり陸がいいな。」
「『やっぱり』って、浮気してたの?」
「してないよ。」
身体をひとつに繋げたまま零ちゃんがティッシュボックスに手を伸ばして僕が汚してしまったお互いの身体をふき取ってくれた。
「僕は零ちゃんしか知らないのに。」
「だからしてないって、陸とこうなってからは…。」
真っ赤な顔をして答えた。
「零ちゃんが好き。僕を零ちゃんのたった独りの恋人にして。」
僕の本音。
「あのさ、ここで一緒に暮らしているのに恋人にしろって矛盾してるぞ。」
ぎゅって、耳を引っ張られた。
「痛いっ、意地悪。」
僕は笑った。
パパ、僕手に入れたよ、永遠の恋人。良いでしょ。
パパも早くいい人見つけてよね、僕いつまでも子供じゃいられないからさ。
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