カウントダウンライブ 〜君に会えてよかった〜
 ACTIVE親衛隊会員番号000007番、高鞍彩未<たかくら あやみ>やっとの思いで、カウントダウンライブのチケットを手に入れました。大体、にわかファンが多すぎるのよ。今までは簡単に取れたのに、『ビュート』が売れてからコンサートのチケットが全然取れなくなってしまったんだもの。
 パパもママもブツブツ言っていたけど、高校時代の思い出に絶対に行っておきたいの。
 陸と一緒に新年を迎えられるんだもの。


 友達の家は皆厳しくて、誰も一緒に来られなかったけど、私はひとりでチケットを握り締めてKKホールにやってきた。
 座席はA-25、最前列の陸寄り。これでばっちりだわ。
 開場は18時、開演は20時。五時間のライブなんて、大丈夫なのかな?
 あれから…私が陸と零の関係を知ってしまってから、時々陸と町で会うようになったのは奇跡としか言いようがないんだけど、本当に度々会えるようになったの。
 私は陸のファンでいようと決めた。どこかで接点を…出来れば恋人に…なんて夢はもう抱いていない。
 そうしたら何故か心が楽になって、今まで以上に陸を応援したいって思ったの。
 まだ、私以外のファンは誰も知らない…陸が免許を取ったこと。
 家の前に立派な外車が停まっていて、邪魔だなぁ…と思ったら窓が開いた。
「彩未お姉ちゃん〜」
 窓から顔を出したのは聖くんだった。
「どうしたの?」
「デート中〜」
 指さした先には、ニット帽姿の陸がいた。
「この間免許取ったんだけど、乗る?」
 …正直言って悩んだ。でもこんなチャンス、二度とない。
「助手席に座っていいよぉ〜」
 聖くんが空けてくれた。陸の隣に座ってしまったのだ。
「彩未ちゃんは聖のお友達だからねぇ。」
 聖くんと一緒の時の陸は、普段の無口なミュージシャンの陸じゃない。まるでお父さんのよう…。
「町内一周だけどね。」
 そう言って五周くらいしてくれた。
「ところで聞きたいことがあるんだけど…この車、見かけたことある?」
「ん〜、私、車に興味ないからなぁ…」
「そっかぁ、なら良いんだ。」
 何だったんだろう、あの質問の意味…。


 KKホールって今までACTIVEのコンサートでは行ったこと無かったんだけど、調べたら8,000人入れるんだよね、ちゃんと見えるかなぁ…。
 入場するのにとっても時間が掛かって、ちょっとムカついたけど、自分の席に座ってしまったら、後はステージが始まるのを待つばかり、になっていた。
 いつも、ACTIVEのスタッフはピンク色。Tシャツがピンク、パンツがピンク、キャプがピンク…等と、どこかしらピンク。
 今日もピンクのつなぎを着て目深に帽子を被ったお兄さんたちが、楽器を持ってやってきた。それぞれ、ギター、ベースを片手にキーボードとドラムにはペットボトルとタオルを持って、もう直ぐ始まる…という雰囲気だった。
 今までだったら照明が暗くなって、どーんっと派手な曲で始まるんだけど…違ったの。暗転と同時に突然、

 
君に会えて、良かったよ

って、陸の声が、陸の声だったの〜!!皆には分からなかったかも知れないけど、陸の声だったの〜!!
 そうしたら、次の瞬間、ピンクのつなぎのお兄さんたちが…アカペラ(演奏なし)で歌い始めた。ピンクのつなぎのお兄さんたちはACTIVEだったの〜!!
 アルバム『カーニバル』に入っていた〔ゆらゆら〕だよ〜。この曲はサンバっぽい曲でもの凄くアップテンポなんだけど、ちょっとアレンジを変えてサビの部分をバラード調に歌っていた。

 
君だけに、君だけを、君だけのために、僕は歌うよ

まで歌ったところで演奏の始まり、原曲に戻ったの。なんかかっこよかった〜。
 皆帽子を被ったまんま、顔がよく見えないまんま一曲目が終わった。
 二曲目はまたまた『カーニバル』から。このアルバムのタイトルは面白いんだよ、全部〔ゆらゆら〕〔そわそわ〕〔わくわく〕〔はらはら〕〔にやにや〕〔がんがん〕〔むかむか〕〔ばんばん〕〔どんどか〕なんてひらがなの連続言葉なの。
 で、この曲は〔どきどき〕。零のちょっと裏返る高音が確かにどきどきなんだよね〜。
 ここでMC。

「こんばんわ。今夜はいつもよかちょっとだけ遅い時間に始まったんだけど、皆大丈夫かな?」

 ここで会場から「大丈夫〜」「平気〜」なんて声が掛かって、零は微笑んだ。

「今年は待望の自分たちのカウントダウンライブです。五時間ですから、絶対に僕は死にます。」

 会場内に笑いか?と思ったのに、意外にも皆「いやぁ」とか言っている。

「嘘うそ、冗談です。ま、色々趣向を凝らしていますので、存分に楽しんでいってください。」

 すると後ろから初が

「零が死んだらいけないので、今夜はMCが多いです。」

と、ぽつり、呟いた。

「うん、質問コーナーとか設けようかなぁ・・・なんて話していたんだけど…『初のぉ〜恋人ってぇ〜美人ですかぁ?』とかさ。」
「超美人ですぅ〜とか?」


 二人の掛け合いが始まった。

「零の恋人はぁ?って聞かれたらどうすんだよ。」
「僕の恋人はぁ〜音楽ですぅって答えちゃうとか?」
「嘘つき大会なのか?」
「なんで嘘つき大会なんだよ。」
「だって零の場合、絶対に誰がなんと言ったって、一番が音楽には見えない。陸だったらありえるけどな。」


 きゃあ、初ったら大胆にフッたなぁ。
 でも相変わらず陸はぶっちょう面。そのままで首を傾げた。

「ねぇねぇ、初〜俺にも聞いて。」

 ドラムセットに埋もれている…っていっても隆弘は決して身長が低いわけではないんだけど、なんだかやたらと機材が多いんだよね、彼の場合。

「はいはい。えっとぉ、隆弘の恋人ってぇ〜人間ですかぁ?」
「…なんだよ、それ。」
「えぇ〜、だって隆弘ってさぁ、動物好きじゃないか。」
「好きだけど…」
「なんて答えたかったの?」


 零が間に入る。

「もう、いい…」

 あーあ、完全にいじけちゃってる。会場からも「隆弘〜、教えてぇ〜」なんて声があっちこっちから掛かっている。

「ごめん隆弘。もう一回聞くよ。隆弘の恋人ってどんな人ですか?…って僕、マジで知らないわ。」
「…美人…というよりは可愛いって感じなんだ。」


 「いやぁー」なんて声が背後からしている。

「俺知ってる、隆弘の彼女。」

 座り込んで、キーボードの調節をしていた剛志が、徐に立ち上がって発した一言。

「ゆりちゃんだろ?」

 「きゃーぁ」なんて叫んでいる子もいる。

「リリイ…だよ。」
「あぁ、ごめんごめん、外人かぶれしていたんだっけかな。その子。」
「だって…未来の子だもん。」
「おーい、隆弘、剛志、なんの話だい?」


 零が訳わからないという顔で質問した。

「スペースポリスに出てくるリリイちゃん。アニメだよ。」
「A-HAN、そういうことね。じゃあ陸、君にも聞いてあげよう。君の恋人は?」
「おい、隆弘はこれ以上いじらないのかい?」
「捨て置け。ほれ、陸。」
「…みかん…」
「お前は犬かい…」


 会場が、どっと沸いた。皆知らないんだよね〜、みかんちゃんは陸の子じゃなくて聖君の子なのに。

「では、そんな可愛い恋人達に捧げる歌です。」

 ここで隆弘くんがスティックを鳴らそうとして、零が静止した。

「大事なこと、忘れていました。僕が嘘をついたままになっていました。」

 私には何のことだかさっぱり分からなかったのよね。

「僕の恋人は、このステージが終わるまで…君達です。」
「よっしゃっ、乱交パーティー!!」


 やだなぁ、初ったら。品が無い〜!!
 ファーストアルバムから〔愛してる。〕〔星を数えて〕〔もしも願いが叶うなら…〕一月に発売になる零プロデュースアルバムから〔white wind〕〔天使の羽〕と立て続けにバラードでもうメロメロ。
 陸がいつも零の話をするとき、『零の歌は例えようが無いくらい、素直に耳に入ってきてハートをぎゅっと掴んでいくんだよね。』って言うけど、本当にそうなんだよね。
 ACTIVEのメンバー、誰が作った曲でも、零でなければ絶対に表現できないように作っているとしか思えないくらい、零の声に、零の表情に、零の仕草に魅了されてしまうの。
 絶対にこのメンバーは変ったらいけない気がする。このメンバーだから、この曲があるんだし、このメンバーだから、出来ることがある。
 零に出来ないことは無いって思ってしまうし、実際どんな曲でも歌っている。
 最後の〔天使の羽〕なんて、まだ続くのか?って思うくらい、余韻を引っ張っていたもんなぁ…。
 なんて感動に浸っていたら、

「先日、盗難にあいました…」

と、再びMCタイム。

「僕らのソロ・プロデュースアルバムの最後を飾るのは陸なんだけど、今回、最後に出来上がった曲があるんだよね。これがさぁ…盗難にあっちゃって…」
「何よ、それっ。」


 声と同時にACTIVEファンの天敵、小峯さえが出てきたの。

「さえちゃん…まだ呼んでないんですけど。」

 零の困り顔。

「もうっ、零ってば失礼しちゃう。まるで私が無許可で歌っているみたいじゃない。」
「…似たようなもんだよ…」


 零が呟くように言った。

「さえちゃんの新曲、僕が歌録りしていたときに聞いていて、勝手に根回ししていたんだよね、この子。」

 くしゃくしゃと、頭を撫でたから大変。会場は大騒ぎ。
 ファンの女の子達は知らない、だから零の恋人はもしかしたらさえじゃないかって疑っているの。だって私だって時々思うよ、本当に仲がいいんだもん。

「俺らの演奏で歌わしてあげるから、歌ったらお帰り。」

 そう言ったのに、さえはその後も結局最後までいたのでした。
 さえの歌が終わり、新旧とりどりの曲が流れて、もうすっかり私の心は幸せモード真っ最中だった。
と、突然。

バチン

という音と共に、照明が落ちた。

「闇の中で、聞いててね。〔声を、聴かせて。〕」

 真っ暗な会場、聞こえるのはゆったりとしたバラード。零の歌声、隆弘のドラム、剛志のキーボード、初のベースと陸のギターが同時に鳴る。

 
君に繋がる 想いを全て 伝えたくて CALL ME CALL YOU だけどわかっている 切なくて…

 ここで、本当なら電話の呼び出し音が効果音で入るんだけど…、ステージ上のスクリーンにデジタル時計の表示が映し出され、音楽も、歌も、途絶えた。

コツコツコツコツコツ・・・カチッ ボーンボーンボーン・・・

 時計は12回、鳴った…。
 え?
 何?
 今のカウントダウンだったの?

 
愛してる その言葉で なにもかもを つめこむことは出来なくて

  静かに、歌が再開した。続き、歌ってる…って、カウントダウンライブなのに、カウントダウンがないの?
 そのあとも何事も無かったように歌が続いた。

「えっと、あけましておめでとう、今年もよろしくねぇ、なんて…照れくさいね。」

 あ、そういうことかぁ。
 零ってば恥ずかしかったんだ。
 あんな風に芸能人しているけど、零はミュージシャンなんだよね。他のタレントさんがやっているように同じ事は上手に出来ない。だから、敢えて曲の一部として、演出の中に取り込んだんだ。
 心なしか、陸が微笑んでいるような気がする。

 アンコールが三回もあって、それでもコールは絶えることなく続いたけど、最後にメンバー全員が出てきて、緞帳が下りた。
 照明が点く前に

ありがとう 大好き

という声が聞こえたけど、これって…陸の声だ。今日は三回も陸の声が聞けた。
 この『大好き』は誰を思って言ったんだろう?零が側にいたのかなぁ・・・。ちょっと妬ける。
 会場のドアを出たときだった、私の携帯(勿論、ACTIVEのビュートだっ)が鳴った。
「もしもし?」
『あっ、あやちゃん。僕、聖だよ。』
「えっ?」
『今どこ?遅いから一緒に帰ろうよ。』
「聖君は何処にいるの?」
『楽屋』
「ええっ」
『裏の駐車場で待ってて、迎えに行くから。』
 ブチッ
電話は情け容赦なく切れた。
 誰と、一緒に帰るんだろう?


「聖がさ、会場で『あやちゃんを見かけた』って言うから、だったら聖の大事な友達だからね、一緒に送っていこうってことになったんだよ。ご両親が心配していたらいけないしね。」
 最初、聖君は陸の運転する車で帰る予定だったらしいけど、急遽、零の運転に代わった。もともと零は打ち上げに参加して、タクシーで帰るつもりだったらしい。
 でも私が同乗するというから、打ち上げを中止して帰ってきたらしい。
「ごめんね、彩未ちゃん。」
「どうして?」
「僕…彩未ちゃんをダシに使ったんだ…今夜どうしても零をつれて帰りたかったから。」
 また、惚気が始まってしまった。
 ステージ上とは全然違う、陸。甘えん坊で、零一筋で、聖君が大好きで、饒舌。どっちの陸が好きかって聞かれたら迷わず、『両方』と答える。
 陸はしっかり公私の顔を使い分けているんだもん。
「陸ね、帰ったらまた零くんに泣かされるんだよ。だけど一緒に帰るの。」
「泣か…」
 おいおい、聖君、純情な乙女にはそんな過激なセリフ、ちょっと刺激が強すぎるよ〜。
「別に泣かしてなんかいないじゃないか。全く…聖は陸派だからな、いつでも悪者は僕なんだよな。」
 あ〜、このラブラブモード、さっきまでステージ上でかっこよく決めていた人達とは思えない。
「零さん、ステージを降りたんですけど、今の恋人は?」
「野暮なこと聞くねぇ、お客さん。決まってるじゃないか、野原 陸以外にはいないって。」
「でも陸さんはみかんちゃんって言っていましたけど。」
「大丈夫、みかんは女の子だからね、陸が満足するはず無い。」
 あーん、やっぱり零はエロ親父だぁー。
「今夜の、ラストソング、とっても良かったです。」
「ありがと。」
「サンキュ」
 二人が同時に答えた。
「陸さんのプロデュースアルバムですか?」
「うん。でも今日はまだここまでしか言わないでおくね。楽しみにしてて、とってもいいものが出来たから。」
「はい」
 今年のACTIVE、きっと今までとは違うACTIVEになる。
 これは私の予言。