ジリジリジリジリ…
んー、もうすぐ夏休みかぁ。
ジリジリジリジリ…
しつこい蝉だなぁ。
「聖!いつまで寝てるんだよ。」
ん?
「なんだ〜目覚ましだぁ」
夢だったんだ。
陸にお尻をペンペン叩かれながら、僕はベッドからよろよろ這い出した。
「夢の中で蝉がうるさく鳴いてたの。だから夏休みだと思ったの。」
洗面所からダイニングに移動すると、今朝は零くんも雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた。
長い脚を組んで椅子の背もたれに寄り掛かってる、よくテレビドラマで新聞読んでる新婚の旦那さんみたいなポーズ。
でも零くんの方が全然かっこいい。僕も大きくなったら零くんみたいになれるかな?
「もうっ、今朝の聖はなんだかヘンだよ?大丈夫?」
大丈夫だよ〜…と、言ったつもりだったんだけど。
「おいっ、聖、何してるんだ?」
むにゃむにゃ…
「駄目だ、寝てる。」
何か言った〜?
「わーっ、間に合わない〜」
もうっ、二人も揃っててどうして起こしてくれないんだよ〜。
「いってきますぅっ」
玄関を飛び出した。
エレベーターに飛び乗り中で足踏み状態。イライラする〜。
「聖っ」
そこに陸が待っていた。
「学校の裏までだからね。」
車を出して待っていてくれたんだ。
やっぱり陸は優しい。明日からはちゃんと起きるからね。
慌てて飛び乗り、僅か2分。
「あと1分でチャイムが鳴るよ、行ってらっしゃい!」
外に放り出され僕は昇降口に走った。
「関心しないな。」
案の定、零は否定的。
「陸がいると思っているから朝起きない。一人きりの時は起きて出かけているじゃないか。」
「いいじゃない、たまには。自転車の二人乗りは駄目だから車出したんだよ?」
大げさにため息をつく。
「あいつを甘やかして、自分で何も出来ない人間にしたくないんだ。」
「大丈夫だよ、聖は零の息子だもん。」
走れ、走れ走れ〜。
「ギリギリセーフッ」
後ろのドアから駆け込んだ。
「珍しい、加月くんが飛び込みなんて。」
ゲッ
なんで先生がいるの?
「お布団、暖かいもんね〜」
ふぅっ
と、ため息をついた。
「先生、しつれん?」
クラスでいつも誰かが好きだといっている女の子が最もらしく訊ねる。
「えー?そうなの?」
みんな、わざとらしく騒ぐ。
「失礼ねっ。みんなは加月くんを見てもなんとも思わないの?私なんて…」
先生は突然口ごもった。
「零くんに似てるから?」
途端に先生の顔が真っ赤になったんだ。
「ちがっ、違うわ、私は…」
「陸さま。だよね〜」
クラスで一番背の高い子が先生をからかう。
「もうっ、先生には何回言ったらわかるの?陸は僕が大きくなるのを待っててくれてるの。僕がお嫁にもらうんだからね。」
えっへん!どうだ!
「そーなんだぁ」
あ、その言い方、信じてない。ま、約束したわけじゃないけどね。零くんよりずっと僕に優しいし、休みの日は絶対に遊んでくれるんだから。
「さて、それでは授業を始めます。」
いつのまにかホームルームの時間はとっくの前に終わっていた。
「ただいま〜」
「ワンッ」
「みかん〜♪ただいまだよ〜」
でも。零くんも陸もいないんだね。
と、突然二人の部屋のドアが内側から開いて中から陸が転がり出てきた。
「おかえり」
髪はボサボサ、声はガラガラ、服はボロボロのシワシワ、顔は少し赤らんでいた。また、二人でせっくすしてたんだ。
「陸」
「ん?」
「せっくす、楽しい?」
途端に顔が真っ赤になった。
「そ、それは…」
答えに困っている陸の後ろをパンツ一枚で出てきた零くんが
「陸は楽しいより気持ち良いんだろ?」
と言い残し、僕の頭を軽くポンボンって叩くとお風呂場へ消えた。
「あんあんって気持ち良いから言うの?」
「あ、その…」
陸、困ってるみたい。
すると急にガバッと、みかんも一緒に抱き締められた。
「大好きな人に抱き締められたり抱き締めたりすると幸せな気持ちになるでしょ?そんな感じ。わかるかな?」
うーん…
「わかるけど、あんあんは?」
「だからぁ〜」
チュッ
音を立てて僕の唇にキスをした。
「あんっ」
は!
「そんな感じ」
そっか!
僕は陸とキスすると何故か声が出ちゃうんだ。
「陸、僕が大きくなったらあんあんしてね。」
「だから違うって〜」
ごめんね、陸。だって僕、零くんが羨ましいなって、時々思うんだ。だって陸は零くんと結婚式までしちゃって、零くんのこと大好きだっていっつも言ってる。零くんのお腹の上で腰を振ったり、下に敷かれてあんあんって言いながら、「零、愛してる」って何度も叫んでいる。
僕にも「愛してる」って言ってくれるけど、裸で抱き合ったり、あんあん言ったりはしないもん。
きっとそれは零くんと結婚式をしたから…って思ったんだけど結婚式をする前から"せっくす"はしてたんだよね。てことは結婚の約束をすればいいんだよね?
「じゃあ、僕が大きくなったら結婚してくれる?」
「それは無理だよ、零と結婚しちゃったから。」
「僕は陸が"ばついち"でも全然だいじょーぶだよ〜。」
「聖…そんな言葉は覚えなくて良いの。」
え〜、どうして〜?僕の一生がかかった大問題なのに。
「だって〜、あんあん言うせっくすは結婚の約束しないとできないんでしょ?」
「そんなこと…ないよ…」
陸が、真っ赤な顔で俯く。
「じゃあ聖が…」
ドキドキなこと、言われちゃった。
「零くん。」
「ん?」
零くんは僕が部屋に入って寝るのを待っている。
「昼間陸とせっくすした?」
「…知ってるくせに…したよっ」
ふふんっ
「じゃあ、今夜は陸と寝てもいい?」
零くんがとっても嫌な顔をした。
「今夜もせっくすするの?陸、壊れちゃうって言ってるじゃない…」
はっ!!
「聖」
「ごめんなさい」
毎晩、覗いているのばれちゃったかな?だけど…陸が一番美人なのって零くんのお腹の上であんあん言っているときなんだもん。
「こっち来て、一緒に寝ようか。聖もひとりじゃ寂しい年頃だもんな。」
いえ、一人は寂しくありません。
「聖が…」
え?
「聖が16歳になったときに、それでも陸が好きだったら、陸に自分の気持ちを打ち明ければいい。それで陸がなんて言うか、自分で確かめればいい。」
え?え〜?
「本当に?」
わ〜い、楽しみだなぁ〜。
「それまでは一生懸命学校の勉強して、陸を守れる男になっていなきゃ駄目だからな。」
「うん、頑張るね。」
「どうしたの?」
お風呂場から陸が戻ってきた。
「今夜は三人で寝るんだ〜。」
「本当?嬉しいな。」
陸が僕をぎゅって抱きしめてくれる。ちょっと前までは陸にぎゅってされるのは子ども扱いされているんだって思って嫌だった。でも今は嬉しい。だって陸は僕のこと大好きだからぎゅってしてくれるんだもん。
「僕、真ん中でいい?」
「いいよ」
「駄目」
当然、駄目といったのは零くん。
「真ん中がいい〜っ」
「いいじゃない、零?」
やった〜。
明日、先生にもう一回教えてあげよう。僕は陸と一緒に寝ているんだよって。
『じゃあ聖が、16歳になったら零に内緒で…ね?』 |