ドラキュラ捕獲大作戦

「ねぇ陸ぅ、今年の夏休みもツアーに行くの?北海道にも行く?」
 夕ご飯の片づけをしていたら、突然聖が僕の顔を見上げながら聞いてきた。珍しく聖が自分からツアーに興味を持ったと思ったら、どうやら北海道に興味があったらしい。
「行くよ。今年は札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡、東京と、比較的少ないんだよね。その代わりライブハウスで10日間ライブをやるんだ。」
 そう、パパが巨額の費用を投じて作ってくれたライブハウス「SEcanDs」で、いよいよ活動をすることとなった。
 まずは夏休み特別ライブを決行。毎日違うメニューをやるから今から頭の中ぐるぐるだよ。
 秋からは児童福祉施設、老人ホームの慰問を開始するんだ。
 やりたいことが一杯あって体が持たないかも。
「北海道、いつ行く?」
 小さな手で一生懸命皿を持ち上げては食器戸棚に運んでいる。
「8月になってからだけど。ちょっと待ってて。」
 片付けの手を止めて、パソコンを起動する。メールで届いていた日程表を確認する。
「出発は8月7日の夜、コンサートは8日で9日の朝一番の飛行機で帰るから聖は、」
 留守番していていいよって続けるつもりだったのに、
「僕も連れてってくれる?」
と、いつもの可愛い笑顔で言われたから
「勿論」
と、答えてしまった。聖にはとことん甘い僕です。
「でもどうして北海道なの?」
「ドラキュラに会うの」
 …ドラキュラ?
「北海道にはドラキュラがいるんだって。だから夏休みの宿題、ドラキュラの研究にするんだ。いいでしょ?」
 …どうやって探そうかな。
「どこにいるかは知っているの?」
「うん。都竹くんか斉木くんに一緒に行って貰ってもいい?」
「それは…大丈夫だと思うけど…都竹くんがいいかな?」
 彼は僕の付き人だから、僕が斉木くんとちゃんと連絡を取れれば問題はない。
「やったぁ。北海道〜♪」
 北海道に妙な節をつけて歌っている姿も可愛い。
 しかし…北海道のドラキュラなんて聞いたことがないなぁ…。


「知らない。」
 案の定、零は素っ気無く答える。
「子どもたちの間で勝手に作った話じゃないのかな?」
「うーん、どうだろうね?」
 子供ってさ、自分たちで色々な話を作り出す天才だけど、根拠がないと駄目なんだよね。
「今はさ、インターネットが普及しているから日本各地どころか世界中の人と親交が持てるんだよなぁ。そんな中から派生した噂話かな?」
 台所で明日の夕ご飯の下ごしらえをしているのに、(ハンバーグだけど)零が腰に腕を回して邪魔をする。
「零、手伝う気がないならあっち行っててくれる?」
「陸も一緒だったら行く。」
 なんてわけの分からないことを言っている。
「邪魔しなきゃ、早く終わるのに。」
「明日のことは明日やればいいのに」
 ブツブツ言いながらも、一個ずつラップに包む作業を手伝い始めた。
「初もなぁ、まもるちゃんに尻に敷かれているんだろうなぁ…」
 既に同棲を始めている二人は、来年の結婚式を待つばかり。
 隼阪まもるとしての芸能生活は今年一杯で終止符を打つ。
「聖みたいな子供が欲しくなったんだってさ。」
 声が少し照れていた。
「真っ直ぐで明るい子がいいなって言っていた。」
 無言で頷く。
 聖は本当に素直だし自分のことは全部自分で出来る。全く手が掛からない子だ。
「初が結婚して、次は誰かな?隆弘の方が早いだろうな。」
「隆弘くんって彼女いるの?」
 そんな話を昔は聞いたことがあるけど、実紅ちゃんに片思いしていたとか、僕にちょっかい出したりするから、プライベートが見えないんだよね。部屋はすっきり綺麗だし、いつ行っても一人だし。
「いるよ。」
 不敵な笑顔。
「剛志だってするんだろうな、多分。」
 おまわりさんと、だよね。
「剛志が幸せになってくれないと、僕はずっと気になって仕方ないんだろうな。自業自得なんだけどさ。」
 今度の笑顔は寂しそうだ。
「零…剛志くんのこと、愛してた?」
 聞こうと思いつつ、躊躇っていたこと。
「…今となっては解らない。自分の感情が理解できないんだ。」
「その時は、愛してた?」
「…うん」
「そっか、良かった。」
 零が僕を抱きしめる。
「ちょっと、手が脂でベトベトなのにぃ。ああぁっ髪の毛に触らないでよぉ」
「一緒に、風呂入ろうか。」
「うん」
「ありがと」
「うん」
 剛志くん、僕は高校生の剛志くんに嫉妬しています。してもいいよね?


「んっ…あぁっ、そこは…汚されてない…くぅっ」
「十分、汚しているけどな」
 髪を洗う僕の横で、湯船の中からくちゅくちゅと音がするくらいいたずらされて、目一杯恥ずかしい状態にされている。
 それでもおねだりするわけにもいかず、もどかしいまま髪を洗う。
「そんな色っぽい声出しながら髪洗うなんて、やーらしぃ」
 …やらしいのはどっちだろう?
「ベッドに行ったら、一杯可愛がってあげるからね」
「ええっ」
 思わず声が出た。
「何?その『ええっ』て。今して欲しいの?」
「うっ…あ…」
 どうしよう。
「手がいい?口がいい?」
「えっ…」
 零がいい。
「お尻上げてご覧。」
 言われるまま、髪はシャンプーで泡だらけのまま、壁に手を着いてお尻を零に向けた。
「やっ、あん、いいっ」
 前と後ろを弄られて、どうにかなりそうだった。
「まだ二本しか入らないからね、もう少し…」
 シャンプーと一緒にオイルが置いてあるのに。
「そういえば聖がリビングでゲームしていたなぁ…まだ8時だもんなぁ…」
「いっ」
 意地悪な、零。
 ぬるんっ、という感じで、零のペニスは僕のなかに簡単に納まった。
「はぁんっ」
「気持ちいい?」
「う…ふんっ」
 ああ、いやだ。僕は今、セックスに夢中だ。
「動いてぇ」
 バックからズンズン突かれて、僕の背中が仰け反る。
「あっあっ」
 いいよぉ…
「聞こえちゃったかなぁ、聖に。」
 意地悪っ、意地悪。
「駄目、もっと…もっとしてぇ」
 分かってるのに、聖に聞こえたら困るのに…止まらない。
「聞こえたっていいよ、陸は僕のものだから」
 当たり前じゃないか、何言って…
「いやぁんっイクっ」
 パンパンに腫れ上がったペニスを置き去りにして、僕は又中だけでイッてしまった。
 根が、スケベなのかなぁ…。自己嫌悪。


「零くん、陸をいじめないでね。」
 お風呂から上がると、聖はゲームを既に片付けて寝る準備が出来上がっていた。
 おやすみなさい、の後に零に一言言い残すと、さっさと部屋へ消えて行った。
「あれは、いじめかな?」
 ニヤと笑う。零も根がスケベだ。
「本番はこれからなのになぁ…」
 ええっ。
「ドラキュラ、調べるんだろう?」
「えっ、あ、うん。」
 零の意地悪。
 パソコンを立ち上げてインターネットで色々調べたけど、全然分からない。
 調べ方が悪いのかなぁ…。


「ドラキュラの葡萄じゃないですか?北海道土産にありますよ。」
 都竹くんが僕に答えをくれた。
「ハスカップジュースですよ」
「あ!そうだ、前にファンの女の子が喉に良いからって零にくれたっけ?」
 ホテルで僕が飲んでしまったハスカップジュースがあったよ。
「なんでドラキュラなんだろう?」
「赤いから血の色に見立てているのかも知れないですね。あっ、ハスカップが身体にいいとか言うんで不老不死のイメージがあるのかも知れませんよ。」
 都竹くん、頭いいな。
「でさ、北海道でドラキュラに会えるの?」
「…さぁ?聞いたことないですけど。」
 やっぱり都竹くんでも知らないか。


「聖、ドラキュラには何処で会えるの?」
 遂に観念して僕は直接聖から聞きだすことにした。
「るーまにあ」
「ル、ルーマニアぁ〜?それって北海道じゃないよ。」
「え?違うの?」
 聖は慌てて部屋に行くと地図帳を手にして戻ってきた。
「だって…ほっかいどう…るーまにあ…あれ?ない…でもゲームには出てきたのになぁ…ないのかぁ…残念だなぁ…」
 かわいいなぁ。
「聖、ドラキュラに会ったら血を吸われちゃうんだよ。」
「大丈夫だよ。僕は子供だから。あ、でも陸は駄目かもしれない。『お年頃の奇麗な女性』が狙われちゃうんだよ。間違われちゃうかもしれないよね。」
 …どうやったら『お年頃の奇麗な女性』と間違うのだろう…でも聞くと長くなりそうだから止めておこう。


「陸さん。」
 翌日、都竹くんが嬉しそうに飛んできた。
「ドラキュラ城がですね、銀座にあるらしいんです。」
「えっ?」
 その情報は聖には伝えないほうが…いいかな?
「ちょっといい雰囲気のレストランで、女性が男性を落とすのにはもってこいらしいんですけど、逆はどうだか調べてないです。」
 へぇ…。
「零さん、誘ったら落とせるかな?」
と、小声で呟いたのを、聞き逃す陸ではなかった。


「で、聖。夏休みの宿題、何を研究することにしたのかな?」
「ん?」
 ふふふっ、と不敵に笑われた。
「日本六大都市のお土産調査」
 …はいはい、コンサートには全部連れて行って、お土産を一杯買わされる…と言う事なのね。


参考
銀座のドラキュラ城…『VAMPIRE CAFE』
ドラキュラの葡萄…株式会社 ホリ