| 「零がイラついているのは僕が悪いんだ、ごめんなさい。」 斉木くんと零の喧嘩がいつまでも続いているから元凶の僕としては申し訳なくなってしまった。
 「いーえ、僕が怒っているのは、零さんがムチャを言っていることを分かっているのに、人をこけにして謝らないからです。僕にだって小さいけどプライドがあるんです。ここで引き下がったら畑田さんにも申し訳が立たないです!」
 ん?なんでここに剛志くんが出てくるんだ?という僕の疑問は横に置いて、斉木くんがかなり怒っていることは確認ができた。
 「零が謝ったら許してくれる?」
 一瞬、躊躇ったけど斉木くんははっきり言った。
 「もちろん!」
 よし、今度は零の方だ。
 
 
 「イヤ…はぁ…ふっ…」
 ヘンだ?零に話があるからと言ったら先にすることがあるからと着いてきたら押し倒された…。
 「ちが…話…あっ」
 零の指が僕のペニスを優しく包み込んでゆっくり上下に移動する。
 「はっ…ふぁ…あ…」
 あっ、気持ちいい…。
 「ひっ」
 零の舌がアナルの入り口を解しにきた。
 生暖かい湿った舌が生き物のように動く。
 「あぁん」
 零はあれから…僕が夾ちゃんと寝てから…前戯に掛ける時間が長くなった。意識しているのかどうかはわからない。
 ただ、何度も「愛してる」と囁かれるのは今までになかったことだ。
 「零…はや…早く…欲しい…」
 違う、僕は話があったのに…。
 「あーぁっ、くる…くるっ」
 零の熱い塊が僕の中に存在を誇示しながら押し入る。
 「あんっ、あっあっあっ…」
 零の動きに合わせて僕の喉から喘ぎが漏れる。
 先にところてん状態で僕は射精したにも関わらず、零が僕の中で射精したのを感じてエクスタシーを感じてしまった…。
 「勿体無いかな、陸の子種。誰かに…やーめた。あんなにあんあん言う奴は女の子より先にイっちゃって受精なんてしないや。」
 また関係ない話を始めた。
 「ちが…さい…きく…ん」
 息が上がってなかなか言葉にならない。
 「斉木のことなら謝らないよ、あいつ馬鹿だもん。陸のそばにいたいくせに意地張るからさ。」
 零は僕の付き人を斉木くんにやらせたかったの?
 「都竹くんと斉木と僕の三人でいいじゃないか。なぁ?」
 …わからない…
 
 
 「ねーねー、終わったら楽屋に行って待っていたらいい?それともパパとママと帰ってきた方がいい?」
 僕は当然、即答した。
 「都竹くんに頼んであるからあやちゃんと一緒に楽屋で待ってて。」
 ママに任せたら三が日は帰って来ないからね。
 僕だって聖がいてくれたら寂しくないんだからさ、零が心配するようなこともない、と断言できるよ。
 聖は自室から何点か服を持ち出しなにを着ようか悩んでいる。
 「僕は左の赤いパンツと白のセーターが好きだな。」
 「んー、赤より茶の方が大人っぽくない?」
 「えー!聖は可愛い方が似合うってば。」
 「可愛いのなんかやだよ、やっぱりカッコいいって言われたくない?」
 ガンッ!
 聖が、可愛さから卒業しようとしている…悲しい。
 「でも…陸がどうしてもって言うなら、赤でもいいよ?」
 「どうしても!お願い!」
 もうすぐ、聖が僕の言うことなんか聞いてくれなくなる。残り少ない時間を大事にしないとね。
 「仕方ないなぁ…じゃあ赤にしてあげるね。」
 「ありがとう」
 嬉しくて抱き寄せた。
 「陸…陸は抱きしめられるのと抱きしめるのとどっちが好き?どっちもは無しだからね。」
 あらら、先手必勝。
 「どちらかといったら抱きしめられる方が好きかな?」
 「じゃあ来年から僕が抱きしめあげるね。」
 え?
 なんか…とっても切ない気持ちなのはなんでだろう?
 
 
 ライブも無事終わって聖があやちゃんと楽屋で待っているのを楽しみに、今回使用したギターを二本手にして、残りは都竹くんに二本預けて引き上げきた。
 そんな時、楽屋の外で出版社の人が花束を抱えて手を振った。
 慌てて外へ行くと賛辞の嵐。あまりにも誉められ過ぎて赤面してしまった。
 「ところで5日は空いてる?うちの編集長がアクティブの写真集兼楽譜集を出せたらと言ってたから打ち合わせを…」
 「本当で…」
 「そういう話は私を通して下さい。」
 その時、僕の後ろに立っていたのは斉木くんだった。
 「野原さんは商品です。売るのはスタッフの役目です。」
 斉木くんの身体がすっ…と僕を庇うように一歩前に出た。
 「そうだったね、失礼。では改めて筋を通すよ。」
 男は踵を返して逃げるように去った。
 「あの人の目的は陸さんです。このあとどう?とか言って誘い出すつもりでしょう…気づいて良かった…」
 「あ…でも、今日は聖がいるし、零も一緒に帰るから…」
 足がガクガク震えた。僕はまたいつかの二の舞をするところだったんだ…。
 「ありがとう…」
 僕は知らない間に斉木くんの腕に縋っていた。あの時の恐怖が甦った。
 「やっぱり都竹が必要ですね、零さんの言い分は正しい。貴方は世間知らず…いや、自分のことを知らなさすぎる。」
 「僕のことって?間抜けすぎるとか?それだったらいつも零に言われ続けているから良く分かっているつもりだけど…」
 ペシッ…と頭を軽く叩かれた。
 「色んな人が陸さんを自分のものにしようと虎視眈々と狙っているんです!だから剛志達はわざと業界の人も結婚式に呼んだんです。陸さんを守るために…誤解しないでください、僕達は陸さんが頼りないと思っているんじゃないんです、大好きだから心配で仕方ないんです…あまりにもこの業界にいる割には人を信用し過ぎる。もっと疑いを持った方が良い。」
 …反論出来ない…。
 すると斉木くんは僕を抱きしめた。
 「大好き…なんです、みんな。独り占めしている零さんに嫉妬してるんです。零さんがノロケると腹が立ちます。機会があれば自分のものにしたいと口説く機会を狙っているんです…零さんを敵に回す勇気があればのことですけどね。」
 耳元で囁くと身体を離した。
 「荷物は新人に運ばせます、貴重品を持って駐車場へ向かってください。」
 てきぱきと有能なマネージャーは指示を出した。
 僕はみんなに愛されている?本当に?
 ずっといじめられたり仲間外れにされたことばかりだったから、素直に嬉しい。
 僕に大好きって言葉をくれる人はパパと零と聖だけだと思ってた。
 にやにやしながら僕はギターケース二つとショルダーバッグを肩に担いで部屋を後にした。
 
 
 「陸〜ぅ。あけましておめでとうございます。」
 マンションに戻るなり聖は僕を抱き寄せ(腰の辺りだけど)新年の挨拶をくれた。
 「おめでとうございます。今夜は遅くなったね、もう寝ようか。」
 あやちゃんを家に送り届けたから若干だけど遠回りしたからマンションの部屋に着いたのは3時近かった。
 少し興奮気味だったので眠気を感じずにいたようだけど、新年の挨拶をしたらゆらゆらと揺れていた。
 歯磨きをさせてベッドに押し込んだらすぐに寝てしまった。
 まだまだ、子供だ、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
 まだ、聖は僕たちの家族でいてくれる。
 可愛い仕草で僕を抱き寄せてくれるはずだ。
 でも…そういえば。
 パパも、零も斉木くんも夾ちゃんも隆弘くんも聖も、僕を抱き寄せた。
 僕って『抱く』ってイメージなのかな?そんなに頼りないかな…。
 不安だな。
 よし、今年の目標はマッチョな体…で行こう!
 
 
 翌朝。
 「いやだー」
 零は流石に疲れたらしく夕べは帰ってシャワーを浴びただけで寝てしまいまだ起きてこない。
 聖は逆に遅かった割に早々と起き出しあやちゃんとを含めてクラスの友達と初詣に行くと言い張るから「僕も着いて行く」と言ったら拒否された。
 「なんでダメなの?」
 町内の神社へ行くだけなのにー!
 「誰も家の人なんか着いてこないもん、カッコ悪い…」
 カッコ悪い…ショック…。
 「夾ちゃんも誘ったんだ、僕たちライバルだからね。」
 聖はまだ夾ちゃんの言葉を信じている。
 「そうか、夾ちゃんが一緒なら大丈夫だね。じゃあ僕は我慢するよ。」
 聖には聖の世界があるからね。
 9時になり、聖は出掛けて行き、零は相変わらず起きてこなくてなんとなくぼんやりとテレビを見ていた。
 画面にDisが映った。カズくんは元メンバーのマサ(正義)くんとメンバーチェンジした双子の正恭くんとやっとラブラブになったって夕べのおめでとうメールにあった。
 今朝は二人でいるのかな…と思ったら生放送と右下に書いてあった。アイドルは大変なんだなぁ…朝早くて。
 次に画面に映し出されたのはさえだった。さえは今、売り出し中の若手俳優に気に入られて毎日のようにラブコールが来てうるさいと、やっぱりおめでとうメールに書いてあった。
 事実かどうかは確認してみないと分からない…。
 次に…え?零?なんで?だってまだ寝室で寝ている…?
 パタン
 「お腹空いた…」
 そう言いながらパジャマのまま、寝室から現れたのは零。僕はキョロキョロと本人と画面を見比べる。
 「今日放送だったんだ。」
 頭をボリボリ、昔の探偵小説みたいな仕草で現れた。
 「録画。ACTIVEだけね。」
 「そうなんだ。って歌撮りしてないのに?」
 「使いまわし。」
 「ふーん…」
 テレビから零の声が流れてきた。
 『明けましておめでとうございます。今年もACTIVEの応援、宜しくお願いいたします。今年の目標ですか?そうですね…変化のない一年、ですね。』
 へー、こんなこと言っていたんだ。
 「変わらずに陸を愛していきたい…なんてね。」
 零ってば…仕事じゃなかったの?
 「夕べの、斉木くんとの会話、聞いちゃった…また陸がボケーッとして危なく引っかかっるところをちゃんと見ていてくれたんだなって…だからあの後謝っておいた。だけど陸はみんなに愛されたい?僕は独占したいな。」
 子供が母親の愛情を独占したがるのと同じだろう、零はじっと僕を見つめる。
 「僕はみんなに嫌われている零よりみんなに好かれる零の方がいい。たった2人っきりになるのはイヤだな。沢山の友達がいて沢山の仲間がいて、初めて誰かひとりをきちんと愛せるんじゃないかと、思う。」
 沢山の人と関わりを持てる人になりたい。
 「それは、いい心がけだと思うけど…すぐに僕以外の人に抱かれるのは出来るだけ止めて欲しい…あの…斉木くんに…廊下で…」
 あ…話を聞いたんだからそれも見ていたんだよね。
 「それは、零が阻止してよね。僕は大事な友人を突き飛ばしたりは出来ないからね。」
 玄関から聖の元気なただいまの声が聞こえる。また、零は嫉妬するのだろうか?なんだか可愛くて、でも可哀想で…笑っちゃう。
 「明けましておめでとう。」
 そう言いながらリビングに来て僕を抱きしめたのは夾ちゃんだったから、零は目を白黒させていた。
 夾ちゃんは耳元で
 「やっぱり諦めないことにした」
 と、意味深な言葉を残して去って行った。
 その後、零と聖が僕を取り合ったりして、僕としてはとっても嬉しいお正月…です。
 
 
 夕方。斉木くんからメールが届いた。
 やっと剛志くんから解放された…と書いてあったのだけれど、それって年越し?ってちょっと惚気がはいっているのかな?と、勘ぐってみた。
 『零さんが陸さんを守ってくれてありがとう、って言ってました。馬鹿よばわりしてごめん、って言ってくれました。だから停戦です。取り急ぎ(早くないけど)報告します。』
 零は本当にちゃんと斉木くんに謝ったんだ。
 僕はいつも零に心配ばかり掛けて不安にさせてばかりいる。
 今年は地に足をつけてしっかり、前を向いて歩いていこうと心に誓ったのでした。
 …身体を鍛えるのも忘れないようにしないと。
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