cultivate the power of understanding
 日曜日の朝、三人揃ってダイニングで少し遅い朝食中、
「陸は人の気持ちがいまいち理解しきれていないような所がある!…まあ、そこが良い所でもあるんだけど…だから!もっと読書をしなさい!」
と、零がエクスクラメーションマークをふんだんに使って力説したわりには大した内容ではなかった。
「何がお薦め?」
 一応会話として成立させるべく、質問をしてみた。
「夏目漱石とか太宰治とか永井荷風とか…」
 昔、中学の時に読んだな…ありきたりのメンバーだ。
「浅田次郎とか東野圭吾とか…」
「それは零の趣味?僕は森鴎外とか司馬 遼太郎、黒岩重吾の歴史小説が好きだなぁ…浅田次郎の歴史小説は面白いよね。」
「…結構、読んでるんだ…」
「収録の待ち時間とか?」
 すると不機嫌な顔で、
「ならなんでもっと他人の気持ちを理解できないかな…」
と呟いた。
 僕ってそんなに理解できていないんだ。
「読書すると他人の気持ちがわかるの?」
 何か納得がいかない。
「書いている人は同じなのに…」
 すると聖が
「陸、先生が言っていたけど『読書は心を豊かにする』んだって。」
と教えてくれた。
 豊か…そうか、零が言いたいのはそこなんだね。
「分かった、もっと幅広いジャンルに挑戦してみるよ。」
 だけど…歴史小説には男娼が登場したりして僕はかなりワクワクするんだけど…着眼点がずれていることはみんなに内緒。


「陸は前向きだよね〜」
 聖が横でやかましい。
 ネットでどんな本を読もうか色々模索していたら、ふと、目に留まった文字があったけど、聖に気付かれるとまたあやちゃん経由で都竹くんに筒抜けだから寝るのを待ってから再度検索をかけた。
 検索キーワードは『ACTIVE』。
 あった。

このサイトは二次創作です、事実と異なるのでご注意下さい

 ???なんだろ?
 とりあえず、enter…っと。

『零×陸』

 何?いきなり僕の目に飛び込んできたのはこの二文字だった。他にも『零×初』や『剛志×隆弘』っていうのもあったけど、とりあえず零と僕が登場人物らしいからここから見てみよう。

 
深夜…陸は一時間以上前に部屋に入った。
 テレビの音も聞こえないので多分寝ているのだろう。
 零はそっとドアを開けた。
 規則正しい寝息が聞こえる。
 陸が生まれた時から見ていた。
 ついこの間まで一緒にお風呂に入っていたのに…。


「ないない」
 いけない、思わず突っ込んでしまった。

 パジャマの裾をめくりあげるとつるんとした白い肌が露わになる。
 零はそっと胸の突起に唇を寄せ、軽く吸ってみる。
「う…ん…」
 陸が身じろぎをしたので少し躊躇したが、ここまできたからには今夜手に入れずしてどうする、と自分にカツを入れた。
 腰を抱え上げパジャマのズボンを引き摺り下ろす。


「ちょっと…」
 これっていつもの零じゃないか…。

 下着の中で小さく収まっていたペニスを取り出すと口に含んでみた。
 陸…僕の…陸。
 夢にまで見たこの瞬間を今、やっと手にした。
「何?零?やだっ、何してるの?」
 目覚めた陸の質問に答えてやることは出来ない。
 慌てて自分のペニスにジェルを塗り付けると一気に、陸のアナルに零のペニスを突き入れた。


「痛いじゃないかっ」
 …僕は思わずパソコンに向かってクレームをつけていた…。


「痛いっ助けてっいやだ…あぁんっ」

 ちょっと待てっ。
 それはない。

「いや、零っ!僕は音楽を愛しているんだ!だから…あうっ」

 …これは言わないな…。

「こんな身体してて、今更何言ってるんだよ」

 言いそうだ、零なら。
 って、これは昔女の子達に見せてもらった『ボーイズラブ』っていうジャンルの話だ。
 初ちゃんと零もあったよね。あったあった。急いでスクロールするとやはり濡れ場があった。

「零っ!僕には家庭があるっ…んだ。だから…」
 零は情け容赦なく初のアナルにペニスを突き入れてはぎりぎりまで抜き、再び角度を変えて深く突き入れる。


 零ってこんなキャラなんだ。
 剛志くんと隆弘くん…も?

「もっと…お願い…剛志っ」
 隆弘は剛志の腰に自分の脚を絡ませると、更に深い繋がりを求めた。
「あっ、あっ、あっ…」
 剛志の動きが激しくなる。



 何?これ、過激だなぁ。
 この他にもメンバー全員それぞれの組み合わせがあるんだけど、最初から最後まで僕だけ総受け…しかも最後は全員に回されてるし…。
 僕ってやっぱりこんな風に見られているんだな…。



「で?落ち込んでるんだ?」
 翌日。
 1ヶ月に一度のラジオ出演の日。
 零を相手に昨日のサイトの話をした。
「僕って男装の麗人みたいな扱いなのかな?」
「麗人とはまた随分大胆な発言だね、だけど確かにそんな扱いかもね。」
 ガーン
 零に言われるとショック。
「零はいいよね、全員を相手にしても男役だし…」
「なんだか途中から聞いている人が誤解するような発言だな、いいじゃないか、陸の恋人がちゃんと陸を男として受け入れしてくれるならさ。」
 本当にそう思ってるのかな?
「ならさ、零の恋人がそんな扱いを受けたらどう思うのさ。」
「今聞きたい?」
「僕は後でもいいけどリスナーのみんなは納得する?」
 すると
「うーん」
とひとつ唸って
「僕にとって恋人は恋人だから関係ないかな。」
と小さな声で答えた。
 それが…波紋を呼んだんだ。

 翌週発売になった芸能週刊誌の小さなコラムに、零の発言について検証してくれた余計なお世話な評論家がいて『あれは二人の個人的な会話だ』と締めくくった。
 その人は最近よくテレビなどで見かける人で、僕らの結婚式には来ていなかったと、初ちゃんに教えてもらった。
「ちょっと面倒なことが起きるかも」
とは斉木くん。いやだなぁー。
 案の定、翌日から仕事先からの帰り道、誰かにつけられている気配を感じた。
 一週間後、都竹くんと別れて地下鉄から降りたときだった。
「あの、野原陸さんですね?毎日カイセキの者ですが…」
と、肩をがっしり掴まれてしまった。
「アポイントのないインタビューは受けられないんです、ごめんなさい。」
 それで切り抜けようと試みたが、案の定無理だった。
「零さんと一緒に生活されてますが…」
来た!
「零さんの恋人が陸さんの…ですね?」
 …?ん?
 僕は思わず反応してしまった。
「陸さんのマネージャーなんですね?」
と、聞かれたからだ。
「そうなんですか?」
 そして、聞き返してしまった…。
「先日のラジオでの会話はそういう意味だと受け取ったのですが?」
「わかりません」
「じゃあ、陸さん…」
「いません!」
 面倒になったので振り切った。
 だけど、相手の目的は僕の表情を確認したかったんだ。
 翌朝、毎日カイセキの芸能欄に「アクティブの同性愛三角関係」の見出しが小さく掲載された。
 内容は…都竹くんをめぐる零と僕の壮絶バトル…らしい。
 結婚式に来ていた記者の人からメールが届いていた。
『うちはノーコメント、ノータッチです、念の為。聖くんに影響がないことを祈ります。』
 他にも同じ様な内容のメールが何通か届いていた。
「あほらし」
が、零の第一声。
「しかしよく襲われなかったな。」
「都竹くんが少しあとから着いてきてくれてたから。何日か前から気付いてたんだ、芸能記者が着けてるって。」
 零が僕の頭を小突いた。
「そういうことは事前報告をしなさい。」
 あ!
「はい。ごめんなさい…」
 又心配させてしまった。心配掛けたくなかったから二人でなんとかしたのにな。
「斉木くんが出した陸の付き人案、まだ有効なんだからさ。僕が一緒のときにすればいいのに…ってこれは軽い嫉妬。」
 零は口元を緩めながら軽く睨んだ。
 かなり変な顔だけど…黙っていよう。
「ところで…」
 零は平然として話し出したから大事な用件かと思いきや、聖には聞かせたくない内容だった。
「例の創作サイトだけどさ、探したら百件近くヒットしたよ。その殆どは陸総受けだったよ。」
「ちょっ…零、聖の前で!」
「あー、知ってる〜。この間のラジオの話でしょう?タイマー予約しておいて学校で聞いたんだけど僕も探したらみんな陸があんあんいってたよ。ねーねー、『18禁』ってなに?」
 あちゃー。…ん?学校で聞いた?
「聖、18禁は18歳未満は見ちゃいけないってこと。だから聖はもう見たらダメだからな。」
 零も流石に焦ったらしい。
「特に涼ちゃんにバレたらやばい。」
 …何だって?
「僕らの性生活がバレバレだ。」
 …違うだろうが…
「けどさ、」
 まだ何か続ける気?
「ファンの子に筒抜けだな。陸の生態…」
 途中でスネを蹴飛ばしてやった。
 しかし、
「誰かがリークしてるに違いない。」
というので犯人は零しかいないと言ってやった、ふんっ。


「陸さん!僕は無罪です!助けてくださいぃぃっ…」
 電話の向こうで都竹くんが切ない声を上げている。
「そんなこと百も承知だよ、何言ってんの?」
 すると泣きそうな声が返ってきた。
「斉木先輩と辰美のヤツがぁ…」
 あれ?そういえばいつの間にか斉木チーフから先輩に戻っている。
「噂になるだけでも許し難いと左遷になりそうなんです。」
「左遷って担当替え?」
 折角聖と仲良くなったのに…。
 斉木くんがタレントとマネージャーが噂になるなんて言語道断だと叫んで、しばらく黒埼さん預けになるんだそうだ。黒埼さんは元零の担当マネージャー、今はパパの主任マネージャーをしている。
「思い切った左遷だね…」
 同情するのが精一杯だった。
「陸さん…」
 泣きそうな声で乞われても僕にはどうすることもできない。
「そうだ!パパには苛めないように言っておいてあげるからさ。」
 都竹くんが電話を切る直前に、
「斉木先輩だったら助けてあげたんですよね…ずるいですっ。」
と、なんだか分からない捨てぜりふを吐かれた。
「なんだか僻んでるんですよ、あいつ。」
 零を迎えに来た辰美くんが都竹くんの様子をそう話していた。
 なんだか分からない捨てぜりふと僻みに困惑するばかりだった。


「零さん、陸さんは何にも気づいてないんですか?」
「多分…」
「可哀想だな、都竹…」
 車の中でこんな会話が交わされていたと知ったのはかなり経ってからだった。


 三日後、案外早い左遷からの異動で都竹くんが帰って来た。
「おかえりー、都竹くんがいなかったから寂しかったよー。」
 なんだか元気がなかったから、ちょっとだけご機嫌をとってみた。
「陸さんなんて知りません!」
 僕に背を向けているのだが、その背中が小さくまるまっている。
「なに拗ねてるんだよー?」
 顔をほんの少しだけ僕の方に向けて、
「だから…スポーツ紙に書かれた相手が斉木先輩だったら…」
と、くぐもった声で、抗議をしてきているようだった。
「またそれ?斉木くんは斉木くん。都竹くんは都竹くん。二人とも僕の大事なパートナーでしょ?」
 都竹くんの身体が僕の方にくるりと向き直ると、満面の笑みになった。
「二人…とも?」
 噛み付かれるのではないかと言うほどの勢いで、肩をがっしりとつかまれた。
「うん…?」
 すると再びくるりっ、と踵を返すと、
「斉木先輩!まだ僕、負けてません!」
と、ドアに向かって叫んだ。
?なんだ?
 やっぱり零が言うとおり、僕は他人の気持ちが分からないのかもしれない。
 もっと一杯本を読もう。
 …ボーイズラブのサイトも、気になるからチェックしよう…特に零と剛志くんの恋の行方が…。


 だけど。
 仕事に全然関心がなかったあの都竹くんが、こんなに一生懸命仕事をする気になったのは嬉しいな。
 僕はいつもマネージャーに恵まれているんだなぁ。