002.中学からの知人
「だから、中学の時の知人です。それ以上でも以下でもないです。」
 そう、知人だ。知人なんだ。
「元カノじゃないの?」
「違います!」
 ここは力強く言う。元カノ、ではない。
 正しくは元カレ…である。
 あいつ、高校卒業後に女になってしまった。
 付き合っていたときは男だった、本当に男らしい奴だった。
 付き合うと言ったって中学生だ、手を繋いで歩いたり、キスしたり、時々互いの部屋でマスをかいた位で、一線は
越えていない。プラトニックな関係だった。
 だから、別々の高校になってしまったけれど、互いに別れるという気は無くて、月に何回かのペースで会っていた。
 高校最後の日に、呼び出され、初めてあいつを抱いた。
 抱いて欲しいと言われて抱くなんて、最低な男だ。
 それ以来、あいつに会えなくなり、大学に通い始めたら、正門の前で俺の帰りを待っているあいつを見つけた。
 俺は…逃げた。
 だって、男だったあいつ…睦城が、可愛い女の子になっていた。
 あいつはゲイだったけど男同士の恋愛を求めていたはずなのに、だからオレと意気投合して気付いたら付き合って
て…違ったのか?
 根本的にオレは何かを間違っていたのか?
 あいつは性同一性障害だったのか?
 それを気付いてあげられなかったのか?
 あーっ!
 今はそれどころじゃないのに。
 どうしたらいいんだ。
 …とりあえず、仕事だ。


『美矢間、俺さぁ、色々考えたわけよ。』
 …ん?電話だと男なのか?
『おーい、聞いてる?』
「聞いてるけど…俺さ、今頭が混乱してるんだけど。」
『そりぁ、そうだろうよ。四年も逃げ回っているんだから。ちゃんと話を聞け。俺が出した手紙も読んでないだろ?メールは
エラーで戻ってきたからな。』
「ごめん。」
『つまりだな…』



 美矢間侑(みやますすむ)。俺の恋人だ。
 ずっと、ずっと狙っていた。こいつを落としたいって狙っていた。
 侑は俺とは中学からの友達だと思っているけど、実は幼稚園から一緒だった。
 稲村ケ崎にある幼稚園で一緒だったけど、クラスが違った。
 極楽寺にある小学校でも、二クラスしかないのに、常に別々だった。
 クラスが違うと全く接点が無いというのもなんだかすごい。
 俺は毎朝通る地蔵に願った。
 ―美矢間くんと同じクラスになれますように―
 地蔵は六年も掛かったよ、願い事叶えるのに。
 中学一年、御成町にある中学校の坂の上で、ばったり出会えた。
 地蔵は俺の願いを叶えてくれて、同じクラスにしてくれて、友達にしてくれて、俺の気持ちも受け入れてくれるというところ
まで叶えてくれた。
 なのに…高校は別々だった。


「何度誘っても全然美矢間は気付かないからさ、セックスしようって言ったんだよ。だけどお前、俺が男だってことに躊躇って
なかったか?」
『全然。むしろ女のお前が嫌だった。』
 …マジか。
「俺、別に性転換とかしてないし。美矢間が俺を受け入れてくれるって言うなら、それは嬉しいし…。」
『待て。俺たち、別れたよな?』
「は?」
『女のお前に興味はないって言ったよな?』
「だから俺は男だって…え?別れた?マジで?いま別のヤツと付き合ってたりする?」
『いや…』
「なら、問題ないじゃん。」
『問題しかないし。』
「なんで?」
『女装趣味、ないから。』
「バーカ、お前本当に馬鹿だな、俺はな、お前が女に興味があると信じてて、それできっと男と外歩くのは嫌なんだろうって、
それで…」
 なんか、涙が出てきた。
 空回り、していたのは俺だったんだ。
 侑の中では、俺は過去になっているんだ。
『無理…ごめん。』
 電話が、切れた。


 睦城が、俺のために女装していた…のか。
 けど。
 俺は今、好きな人がいるんだ。
 だから、ごめん。
 俺は、ガサツで、汗臭くて、勘違いしまくってて…俺のことをいつも見ていてくれた睦城が好きだった。男っぽいその睦城が
好きだった。
 だって…男を好きになっていいって解らせてくれた人だったから。
 ずっとあのままでいてくれたら、今でも好きだった。
 離れている時間が、俺の気持ちを変えてしまった。