004.悩み
 …どこに相談したらいいんだろう?
 一回振られた相手にもう一度振り向いてもらう方法。
 侑が女に興味があるのではなく、男が好きだと知った喜びからの大逆転ノックアウトという何とも情けな結果に
なってしまった。
 侑が付き合ってくれると言ったのは本気だったんだ。
 親友程度にしか思ってないんだと勘違いしていた。
 どうしたらいいんだ…。


 侑は知らないが、俺の仕事は鎌倉彫の彫師だ。…まだ見習いだけどな。
 毎日、侑の店の前を通って職場に行く…本当は通らない場所だけど通っている。
 あいつが毎朝掃除をしているのも知っている。
 ひとつ、気になることがある。
 何回か目が合っているのだが、気付かない。
 無視しているようにも思えない。
 もしかして、最近になって女装ばかりしていたから俺の顔が分からなくなっている?
 まさか…。
 今度、お客さん用の茶菓子に、侑の店を使ってみよう。
 その時、俺のことに気づくかどうか、確認してみよう。


 …やっぱり気付かなかった。
 かなり色々話し掛けたのに。
 いや、気付いていたのか?
 だから視線を合わせようとしなかったのか?
 奥にいたご婦人方は気付いていたようなのに、肝心の侑だけ何の反応もなく冷たくあしらわれてしまった。
 いよいよ本格的に誰かに相談をしよう。
 最悪だ…。



「で?俺なわけ?」
「そう。」
 高校の同級生で俺のことを理解してくれている友人、左貝和海(さかいかずうみ)を訪ねた。
「お前さぁ、解ってんの?俺はお前に惚れてるの、出来れば一回お願いしたいの、解ってる?」
「一回だったら構わない。」
 一回くらいなら減るもんでもないし相談料ってことで手を打ってみるか。
「ごめん、違うよ。一回って言うのはお前を俺のモンにしたいってこと。つまり、俺はソイツにお前を渡したくない
ってこと。」
「それは…可能性がなくはない。…フラれたから。」
 そのための相談相手だろうが。
「あのさ。これって時間の無駄だろ?本人に聞けよ。そしてコテンパンにフラれて俺の所に来い。」
 和海は、俺をギュッと抱きしめた。


「嘘、だろ?」
 侑が後退る。
「何が?」
「俺は…睦城に、本当のお前にどれだけ会ってなかった?」
「四年。」
「そうだよな、四年だよな?なのに…睦城の素顔を知らなかった。」
 侑が何に対してショックを受けているのか解らないがやっと話し掛けてくれた。
「その…もう一度友達からやり直さないか?」
 天にも昇る気持ちというのはこんな感じなんだろうか?侑に交際をO.K.されたとき以上の恍惚感がある。
 下半身に熱が集まる。
 あの日…意を決してセックスした日が脳内でリプレイされる。


「…侑…お願いだから、抱いて。」
 ずっと、夢に見ていた。侑の腕の中はどんな感じだろうって。
 「ごめん、胸が無くて」「ごめん、柔らかくなくて」「ごめん、変なモン着いてて」ずっと、謝っていた。
 だって、侑が俺を抱かないのは俺が女じゃ無いからだと、勝手に思い込んでいたから。
 全てのことに悲観的になっていた。
 だから、侑が俺の中にゆっくりと侵入してきたとき、痛みよりも嬉しさで一杯一杯になってしまった。
 何か口走った気がするけど思い出せない。


「うん、それでいい。」
 今なら解る、愛する人の傍に居られるだけで幸せだってこと。