011.感謝の言葉
 睦城の部屋はユニットバスで、当然だけど別々に入った。
 そして、自分はセックスに関しては淡白だと信じていたのに、風呂上りの睦城に欲情した。
 結局、好きな人としか出来ない体質らしい。
 好きな人…完全に自覚している。
 睦城の部屋にベッドはなく、マットレスを敷いて床に寝ていた。
「これならお客さんが来ても一緒に寝られるからさ。」
 ふと気付く、今夜の睦城は妙に塩らしい。手を出せと言うことなのか?
 いやいや、まだお許しをもらってないからダメだ。
「侑、話しておきたいことがあるんだ。」
 急に改まって睦城が俺を見た。
「俺さ、あの日、侑に無理矢理迫ったこと、後悔しているんだ。侑に無理をさせてしまったって。だから今後一切、そううことをしなくてもいいって思ってる。一生涯、あの日のことを思い出にして生きていけるって、思っている。だからそんなに嫌な顔、しないでいいから。」
 ずっと俯いたままだった。
「ちょっ…ちょっと待った。それってセックスはなしってこと?」
「うん。だって侑はそういうこと嫌いだって言っていたじゃないか。散々考えて出した結論。だから俺に気兼ねしなくていいから。」
 えっと…俺はやっぱり睦城に振り回されているのか?
「睦城。」
 そっと、睦城の手を取り、自分の熱を帯びている部分に導いた。
「俺がさ、こんな風になるのは、睦城だけだって、今日初めて知った。」
「え?何で?」
「何でって…」
「もしかして、侑って俺しか知らないの?」
 …この間、そう言ったよな?言ってないか?
「だったらパブロフの犬状態だよ、多分。俺の裸見るとそんな気になっちゃうのかも。」
「そう…なのか?」
「分かんないけど、そうかも。」
「そうか…」
 睦城の必死な目を見ていたらそんな気がして来た。
「ありがとう…そんな風に思ってくれて。」
「え…あぁ…うん。じゃなくて、俺、睦城が好きなんだ。」
「え?だってあんなに拒否してたのに。」
「俺はっ」
 言葉で伝えるのってどうしてこんなに難しいんだろう。
 身体が勝手に動いて、自分の唇を睦城の唇に強引に押し当てていた。
 数分間…キスと言うより唇同士の接触の方が近いが…唇を離すと、愛の言葉より先に別の言葉が溢れた。
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう。ごめんな、馬鹿な人間で。睦城のこと、全然理解していなかった。」
 睦城はずっとフリーズしたまま動かない。
「俺と、付き合って…いや一緒に暮らして下さい。一生…」
「待って!」
 え?
「まだ、お試し期間は終わってないし。」
 ええっ!
「第一、俺だってまだ職人って言ったって見習い期間なんだよ?最低5年は下働きなんだ。今年の四月に見習いが取れるかどうかの瀬戸際だから、浮ついていられないんだよ。侑だってそうだろ?それに明朝早いから泊まってるのに何してんだよ、馬鹿。」
 そう言うと、さっさと布団に入って寝てしまった。
 俺は…どうしたらいいんだ?