| 俺って、睦城のこと大好きだったんだ。 何で気付かなかったんだろう?
 睦城が独り立ちするなら、全力で応援してやらなきゃ、俺が応援してやらなきゃ…って気がして来た。
 そう思ったら俄然、仕事にやる気が出てきたんだよね。
 現金な奴。
 そしてそんな浮かれポンチ状態でいた俺は、睦城がずっと俺だけを見てくれていると、信じていた。
 
 
 「あなたが美矢間さん、ですか?」
 そう、浮かれポンチ状態のまま、睦城のアパートを訪ねたら、入り口に男が立っていた。
 多分、電車で隣に立っていても、道ですれ違っても、絶対に気付かない、平凡でごくごく普通な男だった。
 年の頃は…同い年くらいかな?
 「佐貝っていいます。睦城の同級生です、高校の。」
 前言撤回、確実に電車で隣に立っていたら睨み付けるし、道ですれ違ったらガン飛ばしてやる。睦城って、こいつ名字でもなくあだ名でもなく、名前、しかも呼び捨て。
 「私が美矢間です。美矢間侑です。三条くんの高校の同級生ということは私とも同い年ということですね?」
 「ええ、そういうことになります。」
 さっきから佐貝と名乗った睦城の高校の同級生は、俺から一切視線を外さず、まっすぐ見ていた。
 俺は、何故か居たたまれなくなって視線を逸らしてしまった。
 「睦城に迷惑が掛かったらいけないので、場所を変えて話しませんか?」
 まだ名前を呼び続けるこの男に段々怒りではなく不安が襲って来た。
 言われて連れてこられたのはチェーン展開しているファミレス。確かにここなら誰も周りの話など聞いてはいない。
 「睦城が、好きです。あなたに恋していた時から好きです。」
 単刀直入に話は始まった。
 「あなたに会えなくて落ち込んでいたり、会えて喜んだり、デートに誘われて狂喜乱舞している、そんな睦城を見ているのが好きです。だから私の想いの先にはあなたが必要なんです。」
 ん?何か、話の方向が違う?
 「睦城はよく、あなたは本当はゲイではないのかもしれないと不安げに言っていました。だったら女装してみたらいいと持ち掛けたのは私です。誤算だったのは睦城として会いに行ったことです。別の女の振りをしろと言ったのですが…。」
 ほぅ…睦城の誤解から始まった誤解だったのか。ややこしいな。
 「それと、睦城は無理をして高校受験をしたそうです、あなたも同じ高校だと思っていたらしく…。つまりですね、あなた方は意思の疎通が全くできていない、そういうことなんです。睦城はあんな性格だから好きな人に自分の考えを言いだすことが出来ない、常にあなたの言いなりになってしまうんです。」
 「あの頃…俺はあいつに何だって話してた、何一つ隠し事なんてしていなかった…なのに意思の疎通が出来ていなかったってことはあいつが聞いていなかったってことじゃないんですか?そしてあいつが言ったこと、俺は理解できていなかったってことになるんだ、きっと。」
 不意に、佐貝は伝票を持って立ち上がった。
 「やっと、分かったようですね。なら早く戻って、あいつに言ってやってください。もう一度、互いの話をしようって。…それから、私には今後一切連絡をしないで欲しいと伝えてください。」
 何故?と聞くのは野暮だ。
 「解りました。ありがとうございました。でも…」
 佐貝の手から伝票を奪い返す。
 「こんなことくらいしかお礼が出来ません。」
 コーヒー代でチャラになるようなことではなかったけど。
 「あの。」
 「はい?」
 「一応、お伝えしますけど。」
 何なんだ?
 「睦城とは三回ほど、しました。」
 そう言って、去っていった。
 しました?・・・した?・・・ってセックス?えっえっえっ?何だよしたって何だよっ。
 俺は慌てて睦城のアパートへ走った。
 
 
 
 「遅かったね。残業?」
 睦城は笑顔で俺を迎え入れてくれた。
 「あ、紹介するね。俺の高校の同級生で、佐貝和海。」
 しれっとしてそこに座っていた。
 「始めまして、佐貝です。」
 そしてそう言って右手を差し出した。
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