「ごめん」
最近、俺は侑にこのセリフばかり言っている。
「大丈夫だって。」
侑は笑顔でそう答える。
…店の経営が上手くいかないのだ。
侑の会社の店に俺の作品を置いて貰っているのだが、売れない。
喫茶部門は及第点だが、如何せん売れない。
小物を作れるようにしないとな。
ここからすぐ近くに成就院というお寺があるのだが、いつからか恋愛成就の祈願にやってくる若い女の子が多くなった。
だから「鎌倉彫」のお盆やアクセサリーボックスなど大きなものは金額も張るから売れ筋ではないのだ。
「若い女の子が好むものって言ったらやっぱりアクセサリーとかかな?」
俺はさりげなく侑に聞いてみる。
「観光地にやってくる子はその場所の特産品とかが思い出として欲しいわけだよ。けど高額なものは手が出ない。最高でも1,500円が限度。だったらその範囲内でできるものじゃないかな?」
「箸とか、銘々皿とか、根付とか?」
「根付?古いなぁ…まぁストラップ自体もう使う人が減っているけど…そう考えると和物が好きな人は根付の方がいいのかな?」
二人で夜通し考えてもなかなか考えはまとまらない。
「次の休み、市内でデートしないか?」
な?
「何言って!」
人が真剣に悩んでいるのに。
「ついでに土産物屋で市場調査しよう?女の子が買うもの。」
あ。
そういうことね。
最近、侑と色っぽい話は皆無だ。
俺のせいだけど、殆ど仕事の話しかしていない。
アパートに戻っても別々の部屋で寝起きする。
正直、寂しい。
けど、侑にしたらこれ以上押してくるのは無理なんだろうな…。
仕方ない。
「侑、」
「ん?」
侑が顔を上げた。
俺は目を閉じる。
「…いいの?」
黙って頷く。
侑の動く気配がした。
頬に熱い掌が当てられた、と同時に俺の心臓は早鐘を打つ。
唇に熱い物が押し当てられ、頬の掌が力を加えられ唇を閉じておくことが出来なくなった。
あっという間に侵入してきた舌に口腔が蹂躙される。
全て舐め尽くされるのでは無いかという勢いで動く、生温かい生物。
既に頭の中はスパークしていた。
離れた唇の名残を惜しむように舌を差し出すと、再び塞がれてしまい、もうどうやって息継ぎをしたらいいのか判らないくらい長い時間、その行為は続いた。
「睦城、どうしよう…」
そう言って導かれた俺の手は、侑の股間にあった。
ドクドクと脈打つ、侑。
それに自分の下半身も呼応するのを感じた。
ダメだ、この言葉を言ったら、負けてしまう。流されてしまう。
けど…。
俺は侑に何を求めた?
彼に何を言い続けた?
このまま彼が自分を見続けてくれる、自信があるのか?
「…したい…」
意思とは関係なく、欲望が口をつく。 |