021.梅雨の日
 梅雨明け間近の七月中旬。
 海開きもカウントダウンに入った。
「今朝は雨だね。」
 向かい合って朝食を取りながら、睦城がポツリと呟いた。
 やっと、恋人として付き合うことになった。
 なんとなく途中から…いや、左貝くんが登場したあたりから何か企んでいるなとは思った。
 だから、ちょっとだけ意地悪をしてみた。
 睦城に言ったとおり俺は、性に関しては本当に淡白で一人でしようとか恋人にして欲しいとかそういう考えを持っていない。
 きっと、睦城に無理矢理されなければ死ぬまでしないかもしれない。
 種の保存に対しては無関心である。
 なので、睦城が痛みに耐えられないと言われて内心ほっとしている。



 雨の日は、洗濯が出来ない。いや、正確にはしたくない。なぜなら乾燥機に掛けるのが面倒だからだ。しわくちゃになってしまって手間が掛かる。 出来れば太陽の陽の下に干したい。…この時期、これを言っていられるのは三日が限界だが。
 部屋の掃除は箒がけをしている。
 あまりバタバタと掃除機を掛けてしまうと、睦城の仕事場に迷惑が掛かるからだ。
 洗濯は二人で交代にやる。
 掃除は基本的に睦城がやる。
 買い物は休みの日にまとめて鎌倉まで行かないとスーパーがない。個人商店で買える物はちょくちょく買いに行く。
 問題は、料理だ。
 嫁にもらった(笑)のに、睦城は料理がほぼ出来ない。
 可愛い嫁にメシを作ってもらうのは男の憧れだ。
 男を嫁にもらったのだから仕方ないが、睦城は可愛い。だから期待するじゃないか。
 なのに、出来ない。
 仕方ないから可愛くない俺がやる。
 店では外が雨でも店先の棚を拭いたり、ディスプレイを変えたり、なんだかんだと忙しい。
「今日は、暇だね。」
 梅雨の日は、店内が閑散としている。睦城はそれを指して言っている。
 窓の外をボーっと眺めながら、何かを考えているようだ。
 そして徐に手を動かし始める。
「睦城。」
「ん?」
「お客さんがいないから、今のうちに昼飯食ってくる。」
「いってらっしゃい。」
 行く…と行っても二階のダイニングで急いで茶碗にご飯をよそって、インスタントの味噌汁に昨夕焼いておいた焼鮭をおかずに慌てて済ます。
 客商売なので食後の歯磨きは必須。
 身だしなみにも一応は気を配る。
 慌てて店に戻っても、客はいない。
 睦城は自分のペースで食事に行く。
 制作に気合が入っていれば夕食時まで没頭することもあるし、気分が乗らなければ昼過ぎに行くこともある。
 しかし、今日はあまり手を動かさずボーっとしていることが多い。
「侑。」
「ん?」
「侑っていっつも俺のこと見てるんだな。」
 は?
 え?
 ええっ!!
「そうか?そうなのか?」
「うん。俺もずっと見てたからな。」
 え?
「まぁ、俺は幼稚園の時からだから癖みたいなもんなんだけどさ。」
「そのことなんだけど。」
「言わないよ。侑と俺が同じ幼稚園で同じ小学校なのは分かってるよね?」
「ああ、どっちも2クラスしかないのに一度も一緒にならなかった。」
「そう言うこと。」
 睦城は意味深に笑った。
「雨、止まないね。」
 睦城が天気の話を始めると、一切前の話には触れない。
「そうか…」
 何かに気付いたようだ。
「俺たちがお互いにお互いのことを見ているから、お客さんが来ないんだ。」
 そっちか…。
「って、それダメじゃないか。」
「大丈夫、きっと。」
 そう言って意味深に睦城が笑った。