| 可愛いと言われただけで、物凄く嬉しいなんて、俺はどれだけ侑が好きなんだろう? それが侑の気持ちではなく、ただ単に感想だったとしても、彼の口から言われただけで嬉しい。
 部屋の中だったら素直に気持ちを告げるのに。なんで廊下なんだよ。
 プロポーズされたのに、特別関係性が変わることもない。
 手も繋がない、キスもしない、抱き合うこともない。
 まだ中学の時の方が深い付き合いだった。
 この旅行で侑の気持ちが変わってくれるといいんだけど。
 「ここかな?」
 俺は侑に気付かれないように平静を装った。
 「うん、ここみたいだな。」
 暖簾を右手でスッと上げ、俺に道を空けてくれる姿が格好いい。
 浴衣を脱いで裸になった姿を目にするのはあの時以来だ。
 「やっぱり睦城、もう少し太った方が良くないか?」
 俺を見てそんなことを言う。
 「そうかな?」
 自分の姿を鏡越しに見て、侑と比べる。
 言われた通り、貧相だ。中学の時はもっとがっちりした体格だった。
 だから…かな?
 
 
 
 「いい湯だったなあ。」
 「そうだね。」
 部屋に戻って寛いでいても、先程の自分の姿がチラついて落ち着かない。
 「夕飯は何時だっけ?」
 「えっと…七時。」
 侑が時計を見る。
 「まだ1時間くらいあるか。」
 そう、呟いたように思う。
 俺の前に影が出来た。
 「睦城、」
 そう言うと、腕が伸びてきて抱き寄せられた。
 「家だとさ、なんか、その…やり難い。」
 やり難い?
 「ずっと、お前を避けててごめん。俺は男っぽい睦城が好きなんだ、今の仕事に打ち込んでる姿とか、今日の作品を見る姿とか…さっきの、」
 少し声のトーンを下げる。
 「裸の睦城に、欲情して焦った。」
 欲情?あんな貧相な身体に?
 「前にさ、睦城の部屋に初めて泊めてもらった時もお前の湯上り姿に欲情した。…シタいって思った。」
 シタい?シタいって、
 「セックス?」
 「うん。ダメ?」
 俺が拒否するわけない。だって。
 「侑、侑は淡白って言ってたよね?俺は、」
 一度、大きく息を吸う。
 「その、逆。毎晩風呂場で思い出しながら、シタ。」
 痛かった、物凄く痛かった。けどそれよりも侑と繋がれたことに感激していた。
 なのに侑は俺を欲することが無いという。
 だから、我慢した。
 それよりも一緒に居られることが嬉しかった。
 侑の腕に力がこもる。
 「なら、遠慮しない。」
 「でもっ」
 唇が塞がれた。
 侑の腕の中で何度も何度も頷く。
 大丈夫、今回は痛くないようにワセリンもコンドームもちゃんと準備してきた。
 どうやって使うのかも、インターネットで調べて判っている。
 あとはどのタイミングで渡すかが問題なんだ。
 侑の腕から解放され、両肩を掴まれた。
 侑の目が閉じられ、ゆっくりと顔が近づいてくる。
 俺も目を閉じて、待つ。
 そっと、唇が重なる。
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