デパートで一ヶ月に渡り開催されている「日本の職人展」。
北海道の木彫り職人、石川の輪島塗り職人、広島の熊野筆職人などメジャーどころ満載だ。
当然、鎌倉塗り職人である俺もメジャーどころではあるが、俺自身がメジャーでない。
他の職人はなんとか賞やらなんやらを受賞している方々で(賞が凄すぎて意味が判らない)本当に俺がここに居て良いのか悩むところだ。
多分、俺の先生の所で断られ、兄弟子も断られ、俺を紹介したのでは無いかというのが俺の推理だ。
最近店頭に並べている小物を含め何点か販売できそうなものを持ってきた。
後は2日で仕上がりそうな途中まで作業している少し大きい作品で行程を見せる。
…作業している時は基本「無」でいなければならない。
なのに俺は何の因果かあの日のことばかり思い出しては顔から火が出そうなくらい火照り、恥辱にまみれる。
いや、きっと侑は気にしてなどいないだろう。けど俺は気になる。
でも、侑だって…。
止めよう。
もうずっとこの調子だ。
「無」の境地。
あ、そうか。2日で仕上げなくて良かったんだ。派手な行程を見せた方が食いつきが良かったなあ…などと思考を巡らせる。
小さい彫刻刀を握り、細かい作業に没頭する。
「どうですか?彼の小作品ですけど可愛いでしょ?」
少し離れた場所で聞き慣れた声がする。
この間店を休んで問題が無かったから、また休んだな。
「良かったら作業工程も見ていって下さい、それ位なら減りませんから。」
女性の客らしき声がする。
「職人さん、イケメンですよね。」
「でしょ?けど鑑賞だけでお願いします、気が散るそうなので。」
そのセリフで気付く、監視しに来たんだ。
少し、嬉しい。
俯いていたので首が疲れた。
顔を上げると侑が苦笑する。
侑が俺を気に掛けてくれるというその気持ちと行為が嬉しい。
あんなことがあった後だから尚更。
「お疲れー」
結局、侑は二日間催事の手伝いをしてくれた。
「店は?」
「姉貴が暇そうだから店番させた。日当5000円で。」
えっと…赤字だな。
「睦城、」
呼ばれて振り向く。
「お前は職人なんだから営業は任せろって言っただろ?」
ん?
「焦って突き進まなくて良いから、ゆっくり、な?」
え?
あの…もしかして?
「ありがと」
とりあえずお礼だけ言っておこう。
荷物をまとめて侑の車に積み込んだ。
「よしっ、上で飯食って行こう。」
「う、うん。」
なんだか張り切っていると思ったら近くのホテルを予約しているとか。
「車はデパートに停めといて良いって言うから、明朝帰ろう。」
そこに、催事の責任者がやってきて、明日の最終日もう一回来て欲しいと言われた。
「もう、荷物積み込む前に言ってくださいよ〜。」
と、侑が軽くOKを出している。
一人でも大丈夫なんて言ったけど、俺には公私ともに侑が必要になってしまっている。
「寝坊できなくなったな。」
って、何する気だったんだよっ。
「てっきりリベンジするんだと思ってた。」
…相変わらず、ストレートだな。
翌日。
侑のお姉さんへのバイト代を稼ぎ出すことが出来た。
侑はいつの間にかショップカードを作っていて、せっせと配っていた。
店に客が来てくれるといいけどなぁ。
でも、俺の心労が増えるばかりだけど。
…近日中にリベンジ、絶対にする。 |