| 睦城目当てにやって来る女性客が一段落し、通常の観光客にほぼ戻った火曜の昼下がり。 「午後から店を閉めて、デートしないか?」
 と、睦城に誘われた。
 「いいね。どこへ行くの?」
 「鎌倉の駅前にある本屋へ資料を探しに行きたいんだ。」
 「了解。」
 睦城は、息抜きで出掛けるなら、一人で行けと言ってある。
 それでも俺を誘ってくれるのは…ま、ね。
 素直に嬉しい。
 鎌倉に戻ってきたばかりの頃、あんなに拒んだのが馬鹿みたいだ。
 睦城は昔と変わらず、性格が可愛い。
 見た目はカッコいいのにな。
 ギャップだな、うん。
 「侑?何さっきから百面相してるんだ?」
 店を閉める準備をしながら、俺の表情の変化を見ていたらしい。
 「いや、睦城がカッコいいなって。」
 「なに、それ。」
 照れるでもなく、平然と交わされてしまった。
 「カッコいいのは、侑の方じゃん。」
 小さく、呟いたのは聞こえなかったふり、しよう。
 睦城は同年代の女性にモテる。俺はどちらかと言ったら、年配の女性からのウケがいい。
 つまり、恋愛対象としてモテるのは睦城、おばあちゃんたちから孫にしたいと可愛がられるタイプが俺だ。
 ということは、事実としてカッコいいのは睦城である。
 …が結論だ。
 「睦城。」
 「ん?」
 「俺の、どこが好き?」
 途端にモジモジと乙女の様な反応をした。
 「いきなり、なんだよ。」
 プイとソッポを向いてしまった。
 
 
 戸締りをして、出掛ける。
 「中学の時の経路で、歩いて行かないか?」
 睦城が言う。
 「いいね。」
 途中、鎌倉彫を扱う老舗があるから、覗いて行くもいいだろう。
 黙って二人で歩く。
 「あら、侑君と睦城君。相変わらず仲良しなのね。」
 あちこちで声を掛けてくるのは、中学時代に通学路として通っていた道々の家。
 「今は一緒に仕事をしています。坂の下でカフェをやっているんで、良かったら来てください。初回はサービスします。」
 なんて愛想を振りまいておいた。
 「ほら。侑はモテる。だから心配。」
 「あのさ、おばちゃんたちには大事な旦那さんがいるだろ?俺なんか眼中にないから。」
 それよりもお前の方のファンが本気になったら怖いよ。
 「侑。おばちゃんたちには、俺等と同年代の子供がいること、忘れてる?」
 「忘れてないけど、俺はモテないからさ。」
 「そりゃ、俺が追っ払ってたからで、実のところ侑は人気があったんだよ。」
 「でも、高校も大学もモテなかったぞ。」
 「高校は…その…買収して…お願いした。」
 ん?
 「侑と同じ高校に進学した太郎君、彼に頼んで排除してもらってた。」
 「え?太郎?太郎って睦城と知り合いだったの?」
 高校時代、俺の周りに纏わりついていた、気の優しい笑顔が子犬みたいな奴(残念ながらタイプではない)が、いつも側に居た。
 「うん。彼なら人畜無害だな…って。」
 「あいつ、高校卒業して、家業の酒蔵を継いだんだよ。で、すぐに杜氏の娘さんとデキ婚したんだよ。」
 「へー、意外だね。」
 俺たちは突然高校時代の話に花を咲かせた。
 「ところで…佐貝くんとは、どこまでいってたんだ?」
 ずっと。気になっていたことを聞いたみた。
 「え?佐貝?どこって?藤沢のデパートくらいかな?」
 「なに頓珍漢なこと言ってんだよ。その…したことあるって言ったじゃないか。」
 俺以外の人間が、睦城に触れたなんて…嫉妬で狂いそうだったんだからな…なんて、一度振った人間は、言えない。
 「そんなこと言ったっけ?してないよ、なにも。学校帰りにデパートで侑に似合う服とか、プレゼントを見に行ったくらい。」
 へ?
 「なんだ、それ。」
 「だって俺の高校時代は侑一色だもん。だから佐貝に怒られたんだ、会いにも来ない男なんて恋人でも何でもないって。だったらいっその事、女装 でもして女の振りして会いに行った方が、効果があるんじゃないかって。」
 ほー。そういう経緯か。確かに彼が嗾けたって言っていたけど、ふーん。
 「折角鎌倉の駅前まで行くから、夕飯、銀座アスターに行くか。」
 「えー、俺は最近テレビで取り上げられていた、鎌倉野菜の店がいいな。」
 「それだったら…」
 俺たちはデートを思いっきり楽しんでいた。
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