| それは、少しだけ予感はあった。 
 「侑じゃーん!元気?」
 どうして、俺の回りの男達は、こんな登場ばかりするんだ?格好は明らかにサーフィンやってますという、聞いて欲しい感満載だ。普通に出て来い。
 と、心の中で呟きながら、それでも客商売ゆえの性は、笑顔で対応していた。
 「相変わらず丘サーファーなんだな。」
 「いやいやいやいや、ちょっと待ってよお兄さん、よーく見て、ほら。ちゃーんと、日焼けしてるでしょうが!」
 日焼けしていても丘サーファーは丘サーファーだし。
 「あれからさぁ、ボク一生懸命練習した訳よ、判る?で、そこそこの大会で優秀な成績を収めちゃったわけ、判る?」
 判るよ、はいはい。…と、これも心の中で突っ込む。
 「で、やっぱり侑と睦城は一緒にいるわけ?」
 あー!面倒くさい!
 「由木、悪いけど閉店後にもう一度来てくれないかな?」
 「了解っす!」
 相変わらず、だな。
 
 
 中学生の時。
 睦城と付き合っていた頃。
 二人で手をつないでの帰路、由木に会った。
 「なんだよ、おまえら男同士で手なんか繋いで、まさかおホモ達じゃ…なの?」
 と、遊び道具を見つけた子供のようにはしゃいだ。
 「ボクさ、ここからサーファーが板に乗るの見てるのが好きなんだよ。お前らも?」
 しかし、由木はそれ以上、追求しなかった。
 「サーファーは、そんなに興味ないかな。俺は睦城と海を見るのが好きだ。」
 「睦城って…やっぱりお前ら付き合ってるのか?」
 自分から蒸し返した。
 「あぁ。頼む、他の連中には、」
 「言わないけどさ、いつから付き合ってんの?」
 「二ヶ月くらい前…かな?」
 「そっか。」
 その後、由木と別れて、再び二人で歩いていると、睦城が口を開いた。
 「前から気になっていたんだけど、由木って、侑のことをいつも見てるんだ。」
 それは、気付かなかった。
 「由木も侑が好きだったらどうしよう。」
 睦城の表情が曇る。
 それはないと思うけどなぁ。
 でも睦城が心配するから注意しておこう。
 
 
 その翌日。
 「おっはよー!」
 と、背後から肩を抱いてきたのは由木。
 何のことはない、ただ単に俺たちと仲良くしたかっただけらしい。
 それから何かと纏わり付いてくるけど、しつこくないからそんなに気にはしていなかった。
 卒業が近くなった頃、不意に由木に呼び出された。
 「美矢間はどうやって三条とつきあいはじめたの?」
 「なんで?」
 つまり、由木が頻繁に出掛けている海は、ある特定のサーファーに会いに行っていたのだ。
 
 
 
 「こんばんは!」
 夜。由木はやって来た。
 「所でさ、例のサーファーとは仲良くなれたの?」
 俺は由木について、思い出したことを聞いてみた。
 「お陰様で、今はサーフィンを教わってる。」
 「へー。随分と進歩したじゃん。」
 由木は、嬉しそうに笑った。
 「お前らがさ、楽しそうに教室で話しているのを見て、クラスの仲良い連中とは違う空気を感じたんだ。それで、憧れの人に近付きたいな…って、思ったわけ。」
 睦城は黙って由木を見ている。
 「一緒に大会に出たり、子供達に教えたり、楽しい時間を過ごしてる。」
 「そのサーファーさんは、由木の気持ちを知っているの?」
 驚いた顔で、由木は睦城を見た。
 「どうして?」
 「だって、その為に俺達に近付いたんでしょ?」
 由木は、睦城から視線を外した。
 「彼女は…」
 「えっ?」
 「女性?」
 俺達は同時に声を出した。
 「なんだよ?」
 「いや、続けてください。」
 不思議そうな顔で話を続ける。
 「彼女は、当時高校三年でさ、ボクより三歳年上だったんだ。」
 …細かい突っ込みをすると話が途切れるから、心の中でだけにする…。
 「大学生の彼氏がいてさ、相手にもされなかった。」
 「それで毎日見に行っていたんだ。」
 睦城は合点が行ったとばかりに頷いた。
 「で、いつ元カレとは別れたの?」
 「別れたなんて言ってないぞ。」
 「でもその人と上手く行ったから、ここに来たんだよね?」
 「まぁ…って、何で解った?」
 睦城はニッコリ笑っただけで、理由は言わなかった。
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