| 予定通り、小田原へ日帰り旅行へ来た。 侑の運転で…と、思ったけど、前夜由木と呑んでしまったので、大船から東海道線に乗って来た。
 「小田原城址公園に梅園がある。」
 僕はそう言ったんだけど、タクシーで曽我まで来た。
 梅園で有名なところだ。
 ここで写真を撮ったりスケッチをして、小田原へ戻った。
 「城を見てから箱根湯本で日帰り温泉に入って帰るか。」
 「いいね、それ。」
 本当は一泊できたら良いのだけれども、明日も店を開けなければいけない。
 俺がもう少し腕の良い作家だったらなぁ…と、思ったとき、一緒に師匠のところにいた先輩を思い出した。
 彼なら、売れる作品を作れるのではないかと。
 それまで、団葛にある店で働いていたのだから。
 俺みたいに最初から恵まれた環境にいると、作品が呆けている。
 彼なら、厳しい環境下で、勉強もしている。
 帰って電話をしてみよう。
 「どうした?」
 「うん。ちょっと良い考えが浮かんだから、帰ったら試してみる。今日は連れてきてくれてありがとう。」
 「睦城が良い作品を作れるのなら、幾らでも連れてくるよ。」
 小田原城には、色んな作品を展示しているスペースがある。
 市内縁の作家とか素人もいるようだ。
 「今度は鎌倉市内の神社仏閣を見て回ったらどうかな?仏像とか参考になるんじゃないか?」
 「うん。」
 既に何度も見ているけど、何度見ても新たな発見がある。
 お城の最上階に着き、外へ出た。
 ふと、侑の手元を見ると、手摺をギュッと握っていた。
 「あれ?高所恐怖症だったっけ?」
 返事がない。
 「侑?」
 「話し掛けないでくれ…」
 余程らしい。
 「無理しなくていい、中に戻ろう。」
 「すまん…」
 いや、俺としては意外な一面が見られて楽しいんだけど。
 「観覧車は平気なんだ。だけど、ガラスがないと、怖い。」
 分からなくはない。
 「気にしなくていいよ、俺もそんなに得意じゃない。」
 ウソ、全然平気だけど。
 駅への道すがら、干物屋を見つけた。
 「帰りに買えるかな?」
 「湯本にもあるよ、きっと。」
 そんな話をして、小田急に乗り込んだ。
 
 
 箱根湯本駅に着き、温泉の送迎バスに乗る。
 乗ったと思ったらあっと言う間に現地に着くという、お手軽さだ。
 日帰り温泉だけど、個室があり、完全にプライベート空間。
 今の家でも時々一緒に風呂に入るけど、大の大人が二人で入るには、やはり狭い。
 「日帰りなのに凄い豪華だよね。」
 「そうだなぁ」
 イソイソと二人で着衣を脱ぐ。
 実はかなり恥ずかしいんだけど、そんなことは言っていられない。
 手早く服を畳んで、裸になる。
 ふと、侑の方を見ると、堂々と素っ裸になっていて、俺に対して羞恥心はないんだと、ちょっぴり切なくなる。…なんでだろう。
 「おい」
 「ん?」
 「そんな、ジロジロ見るなよ…今は、その…無理だろ?」
 え?無理?
 「いや、その、そんなつもりじゃ」
 そうだよ、別に下心はな…くはない。
 互いに裸のまま、抱き寄せられた。
 そのまま、唇を重ねる。
 ゆっくり、唇が離れていき、「まだ、寒いな」と、耳元で囁き、浴場へ手を引かれて入った。
 湯に浸かりながら、互いに声を発せず、じっと見つめ合う。
 「出るぞ」
 え?
 いきなり、手を引かれて、今度は部屋に連れ戻された。
 「やっぱり、無理だ。…大きな声、出すなよ。」
 「うん」
 
 
 洗い場で、互いに身体を洗う。
 「なんか、環境が違うって…エロい気持ちになるんだなぁ」
 「そうだね」
 俺的には、大満足だけど。
 そんなこんなで、帰路についた。
 勿論、駅前の土産物店で、干物を買った。
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