035.小田原小旅行
 予定通り、小田原へ日帰り旅行へ来た。
 侑の運転で…と、思ったけど、前夜由木と呑んでしまったので、大船から東海道線に乗って来た。
「小田原城址公園に梅園がある。」
 僕はそう言ったんだけど、タクシーで曽我まで来た。
 梅園で有名なところだ。
 ここで写真を撮ったりスケッチをして、小田原へ戻った。
「城を見てから箱根湯本で日帰り温泉に入って帰るか。」
「いいね、それ。」
 本当は一泊できたら良いのだけれども、明日も店を開けなければいけない。
 俺がもう少し腕の良い作家だったらなぁ…と、思ったとき、一緒に師匠のところにいた先輩を思い出した。
 彼なら、売れる作品を作れるのではないかと。
 それまで、団葛にある店で働いていたのだから。
 俺みたいに最初から恵まれた環境にいると、作品が呆けている。
 彼なら、厳しい環境下で、勉強もしている。
 帰って電話をしてみよう。
「どうした?」
「うん。ちょっと良い考えが浮かんだから、帰ったら試してみる。今日は連れてきてくれてありがとう。」
「睦城が良い作品を作れるのなら、幾らでも連れてくるよ。」
 小田原城には、色んな作品を展示しているスペースがある。
 市内縁の作家とか素人もいるようだ。
「今度は鎌倉市内の神社仏閣を見て回ったらどうかな?仏像とか参考になるんじゃないか?」
「うん。」
 既に何度も見ているけど、何度見ても新たな発見がある。
 お城の最上階に着き、外へ出た。
 ふと、侑の手元を見ると、手摺をギュッと握っていた。
「あれ?高所恐怖症だったっけ?」
 返事がない。
「侑?」
「話し掛けないでくれ…」
 余程らしい。
「無理しなくていい、中に戻ろう。」
「すまん…」
 いや、俺としては意外な一面が見られて楽しいんだけど。
「観覧車は平気なんだ。だけど、ガラスがないと、怖い。」
 分からなくはない。
「気にしなくていいよ、俺もそんなに得意じゃない。」
 ウソ、全然平気だけど。
 駅への道すがら、干物屋を見つけた。
「帰りに買えるかな?」
「湯本にもあるよ、きっと。」
 そんな話をして、小田急に乗り込んだ。


 箱根湯本駅に着き、温泉の送迎バスに乗る。
 乗ったと思ったらあっと言う間に現地に着くという、お手軽さだ。
 日帰り温泉だけど、個室があり、完全にプライベート空間。
 今の家でも時々一緒に風呂に入るけど、大の大人が二人で入るには、やはり狭い。
「日帰りなのに凄い豪華だよね。」
「そうだなぁ」
 イソイソと二人で着衣を脱ぐ。
 実はかなり恥ずかしいんだけど、そんなことは言っていられない。
 手早く服を畳んで、裸になる。
 ふと、侑の方を見ると、堂々と素っ裸になっていて、俺に対して羞恥心はないんだと、ちょっぴり切なくなる。…なんでだろう。
「おい」
「ん?」
「そんな、ジロジロ見るなよ…今は、その…無理だろ?」
 え?無理?
「いや、その、そんなつもりじゃ」
 そうだよ、別に下心はな…くはない。
 互いに裸のまま、抱き寄せられた。
 そのまま、唇を重ねる。
 ゆっくり、唇が離れていき、「まだ、寒いな」と、耳元で囁き、浴場へ手を引かれて入った。
 湯に浸かりながら、互いに声を発せず、じっと見つめ合う。
「出るぞ」
 え?
 いきなり、手を引かれて、今度は部屋に連れ戻された。
「やっぱり、無理だ。…大きな声、出すなよ。」
「うん」


 洗い場で、互いに身体を洗う。
「なんか、環境が違うって…エロい気持ちになるんだなぁ」
「そうだね」
 俺的には、大満足だけど。
 そんなこんなで、帰路についた。
 勿論、駅前の土産物店で、干物を買った。