040.交通渋滞
「海沿いも駅前も凄いことになってる」
「当然、江ノ電も?」
「うん」
 普段から混んではいるが、紅葉シーズンがやって来たので、観光客が多い。
 子供の頃にやって来ていた観光客は、大抵江ノ電に乗って来た。しかし今は車で来る人が多いので道が混む。ただでさえ狭い道が混む。
 源平の時代から攻め込まれないように道が出来ているから狭いのだ。
 そして、脇道も混んでいる。
 そんな日はあまり客足が伸びない。
「閉めて、製作に専念するか。」
 睦城は製作だが、俺は買い出しに行く。
「自転車?」
「便利だからな」
「そうだね。」
 玄関を出て自転車に跨がると、自動車道路の混雑が目に入る。
 Uターンして海沿いの道へ向かう。
 こちらから鎌倉へ抜ける道がある。
 先日はこの道も混んでいた。
 通りから見えた道は、混んでいなかった。
 思い切って突っ込む。
 しかし、難敵は顔見知りのおばちゃんだ。足止めを食いたくない。
 なんとか難関を制し、大通りを横切った。
 約20分かけて鎌倉の行きつけのスーパーへ辿り着いた。
 有名な市場へは行かない。なぜなら奇抜な物ばかり売っているからだ。
 もう一つの市場は、店が大きく入れ替わってしまった。
 今日の買い出しは仕事ではなく自宅用。
 献立を一週間分、ざっくりと考えてから来る。
 睦城の好きな物を作ってやりたいけど、そればかりだと偏るからなぁと、毎回悩む。
 そんな時は何でも鍋にぶち込んで、煮込む。
 それが何になるかは、ぶち込んだもの次第。
 シチューになるか、煮物になるか、おでんになるか。
 天気や気温も大きく関係する。
 …自分の気分や体調も大きく関係する。
 時間があれば、それと気分が乗れば、作り置きなんかもする。
 なんてったって、睦城は見かけに寄らず家事全般苦手だからなぁ。
 作業場の掃除だっていい加減だ。
 それでも、オレには睦城の世話を焼くことが、一日で一番楽しみにしている。
 そのあとにあるかもしれないことも含めて。
 自転車の荷台に取り付けた籠に、買い物をした荷物を入れると、オレはまた、交通渋滞を横目に住宅街の細い道を行く。
 最近はこの道にまで観光客やテレビの取材が入り込んできて、どこもかしこも渋滞している。
 鎌倉の子供たちは、江ノ電を使って通学をする。自転車通学は基本禁止だ。昔、自転車事故があったから、禁止になったらしい。
 だから、観光客が朝から押し寄せてくると学校にも行けない。
 その為にも穴場の道は確保しておかなければならない。
 少し長く歩くけれども、徒歩で通った方が確実に学校へ着ける。
 あの頃、楽しかったな。いつも二人だった。
「今も、変わらないじゃん。」
 思わず呟いていた。
 長谷の駅前まで来ると、同級生が小学校時代にまで遡るので、付き合いが深くなる。
 睦城より前に知り合った同級生だ。
 最近は睦城の為に避けていたけど、向こうに見付かると普通に挨拶はする。
「美矢間さぁ、小学校の同窓会、来ないの?」
「ウチのクラスだけだろ?」
「お前、相変わらず人の話聞いてないな、同窓会って言っただろ?学年だよ。…あいつと来るんだろ?一緒に店やってる?」
「あぁ、三条。」
「中学からずっと一緒に居たもんな。そこまで一緒にいると、彼女が妬くだろ?」
「彼女はいないよ」
「なら、取り敢えず修羅場は無いな」
 そんな話をして、別れた。
 返事、やっぱり欠席にしておこう。
 海へ出ると、やはり道は混んでいた。
 早く、睦城の待つ家に帰ろう。