| 31日から店を休んでいる。 朝から1階2階共に大掃除だ。
 1日は実家に戻り2日から睦城は制作活動に入る。
 俺は睦城の邪魔にならないようサポートに入る。
 …ま、食事担当が妥当か。
 「侑」
 「ん?」
 「一日はやっぱり泊まってくるんだよな?」
 「え?挨拶してくるだけって言ったじゃないか。昼過ぎに行って夕方には戻るって。だから夜は一緒にご飯食べようって言ってたろ?忘れた?」
 「ごめん、忘れたんじゃ無くて聞いてなかったんだ、多分。侑と離れるの、イヤだなぁって考えてた。」
 可愛いのか、なんだかわかんないけど、嬉しい。
 「大丈夫、朝はいつもの雑煮作ってやるよ。」
 「うんっ」と、子供みたいな返事が戻ってきた。
 「あ、手土産に厚焼き玉子持って行って。作って今冷ましてるから。」
 すると睦城が不思議そうな顔をする。
 「絶対に侑って料理上手には見えないよなぁ。不思議だよなぁ。」
 「前に言ったじゃないか、別に上手くないって。まぁ、睦城と一緒に暮らす前に、練習したけどな。」
 「調理師免許とって本格的に仕事にしたら良いのに。」
 「俺は、レストランじゃ無くて喫茶店のオヤジになりたいの。」
 美味い店は沢山ある。けど、ちょっとだけ一息つける場所は中々無い。
 高額では無い簡単な喫茶スペース。あったら嬉しい店を目指している。
 「僕もさ、高価じゃ無い鎌倉彫を目指したいな。押し入れにしまう物じゃ無くて普段使いの鎌倉彫。」
 睦城にも夢が出来たらしい。
 「その為にはやっぱり、」
 「ううん」
 途中で遮られた。
 「ここで、頑張ろう?この場所に訪れてくれる場所にしよう?」
 坂ノ下は、観光地としては知名度が低い。
 梅雨の紫陽花、夏の海、何れもメインでは無い。他の地でも事足りる。
 古都としてはマイナーだが、新街だったらなれる。
 「幸い、小中の同級生は近所に住んでいる。」
 睦城が言う。
 「もう少し、交流した方が良いと思う。左貝くんだけじゃなく。」
 新しい街。
 「そうだな、カフェが増えてるしな。」
 新年、新しい目標が出来た。
 
 
 「ただいまー」
 睦城が勢いよく帰ってきた。
 俺は少し前に玄関の鍵を開けたところだ。
 「おかえり」
 「うん」
 なぜが頷くと、いきなり抱きついてきた。
 「どうした?」
 「侑の、匂いだ。懐かしい。」
 「って、たった五時間くらいだろ?」
 「でも、買い物に行ってたってもっと帰りは早い。」
 「台風のときはもっと長かった。」
 「うん。…好き。」
 睦城から久しぶりに言われた気がする。
 「俺も。」
 「好き?」
 「うん」
 「好き?」
 「好きだよ」
 「良かった。」
 「なんか、あった?」
 睦城は何も無いと言ったけれど、何かあったに違いない。
 「何もないけどさ、母が一緒に暮らしたいと言い始めた。」
 そうか。
 「それがさ、父も居たんだ…これからは一緒に暮らすらしい。」
 睦城の家の事情は複雑だ。
 「それでも籍は入れないんだから、面倒な二人だよな。」
 そう言いながら、嬉しそうだ。
 「ん?ってことは三人で暮らしたいのか?お母さんは。」
 「それもあるけど…また始まったんだ。理解していなかったって事だよな。」
 また、と言うのは睦城の結婚話だ。
 「僕に言う前に自分が籍入れろよなぁ。」
 「睦城、」
 「ん?」
 「俺、睦城の家に行ってくる。」
 「え?」
 「ちゃんと話してくるよ。」
 幸いにも帰ってきたばかりなので余所行きの服だ。
 「晩御飯遅くなるけど帰ってきたら作るから待ってて。」
 そう言い残して家を出た。
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