衛利に笑われた。
そのまま入れずに、細かく切って炒めたタマネギと合わせて、レタスを挟めと助言された。
流石に食のプロだ。
トマトもあると、女性は喜ぶとも言われた。
「侑は、女心が分からないんだな。」と、当然のように言われ、紀ちゃんが、「睦城くんしか見てなかったじゃん。」と、付け足した。
そんなに?俺そんなにあからさまだったか?
「うん。」
そうか…。
「でも誰も偏見なんか持ってなかったよ、お前ら、可愛かったから。」
「可愛かった?」
なんか心外。
「うん、初々しいって言ったら良いのかな?」
「そうだねー、二人とも初だった。常に気を遣って付き合ってた感じ。人目を気にしていたんだろうけど、それが逆に可愛らしくてクラスでも浮いては居なかったかな?」
参った。そんなに見られていたのか。
「でさ、その、試作品を作るからさ…」
二人を店休日に招待した。
その日は野菜を仕入れることになった睦城に告白してきた女子…睦城に聞いたら「鈴木さん」と言っていた…も、焼豚の左貝も呼んだ。
その時、衛利がふと思い出した。
「あのさ、夕平って覚えてる?田中夕平。」
覚えてるもなにも、夕平は小学校から同じクラスだった。
家は隣町だったから登下校は別だったけど。
「その夕平だけどさ、」
「いやぁ、今のところ部外者なのに、お招き頂いてぇ、なんかね、」
「夕平っ!お前水くさいじゃ無いかよ。俺らの店のこと知ってたって言うじゃんか。ならとっとと商売品持って営業に来いよぉ!」
俺は思いっきり懐かしくなって昔通りに話し掛けた。
「お、おー」
しかし、夕平はなんかテンションが低い。
衛利が後から伝えてきたのだが…衛利も後から聞いたらしい…クラスに当然の如く、俺らに好意的では無い人もいて、夕平はそちら側だった。
「カタログ、持ってきたよ。侑は、どんな感じのものが欲しいんだ?」
「これから出す、サンドイッチに合う紅茶!」
そう、夕平は紅茶の老舗メーカーに勤めていたのだ。
「楽しかった。」
睦城が、洗い物をしながら嬉しそうに笑った。
「そうだね。」
二人で昔の友人に会うのは、苦手だった。
「左貝くんはどこの中学?」
「深沢」
「そうか、だから同じ学区か。」
「うん。」
俺は睦城の頭を自分の胸に抱き寄せた。
「洗い物ができないんですけどぉ。」
くすくす笑っている。
「キスして、いい?」
「…今更、聞く?いいよ、」
なにか続きがあったようだけど、遮った。
明日も店休日だ、今夜は少しくらい夜更かししても…と、手を伸ばしかけたとき、「明日は買い出し、一緒に行くよ?」と、妄想中の俺を睦城は現実に引き戻した。
「久し振りに歩く?」
「自転車に荷物を積んで?」
「うん」
相変わらず鎌倉の道は混んでいる。とてもじゃないけど買い物くらいで車は出せない。
「早く完成品を作って、また皆で集まりたいね。」
睦城はよほど楽しかったのだろう、次の新作発表会も期待をしている。
「いつか、同窓会が開けるくらい、大きな店にしたいな。」
くすくす…睦城が笑っている。
「どうした?」
「いや、毎晩サンドイッチが晩餐になったら店は大きくならないなと思った。」
「そりゃそうだ。」
「あーあ、僕が料理出来たら、デザートを作ったのになぁ。」
「いや、デザートは難しいから。っていうか、プリンに挑戦しようかと思って。」
「夏になったら、かき氷?」
「いいね。」
夢は、どんどん膨らむけど、手が足りないんだな、これが。
「侑。」
ふいに、睦城が名を呼ぶ。
「侑ばっかり無理しなくていいよ。明日ね、中二の担任だった、小島先生が、来る。今は定年退職して、暇なんだけど、時々家でクッキーやマドレーヌを焼いているんだって。会ってからでもいいけど、仕入れたらどうかな?」
そうか、誰かに頼めばいいのか。
「ありがとう。そうか、仕入れか。なら、明日先生に聞いて、誰か趣味でお菓子を作っている人を聞いてみよう。」
別に先生じゃなくてもいいんだけど、折角だからね。
「今日来た鈴木さんに、昔手作りチョコレートをもらったよ。」
え?
「由比ガ浜の海岸で一緒に食べたヤツ。」
「ええっ」
睦城、それはいくらなんでも可哀想だよ…。 |