046.休んでるんだか遊んでるんだか

 店を閉めている日。
 睦城は自分の世界に篭もって、作品造りに精を出している。
 侑は翌日以降に店へ出す菓子を作っていることが多い。
 店は、睦城の作品コーナーと喫茶コーナー。
 喫茶コーナーでは、ワンドリンクでクッキー、サブレ、侑の前職での土産菓子のセットかサンドイッチのセットを選べる。今のところはそれしか無い。無いというかそれだけにした。
 その前は色々手を出しすぎてパンクした。
 侑は睦城に迷惑を掛けたと思って規模を縮小したのだ。
 それでも二人を目当てに女性客は、来る。
 週に4日しか開いていない店。
 それが女性心を惹きつける。


「なんだ?これ?」
 クローゼットの奥に、見たことのない箱が隠すように仕舞ってある。
 何気なく取り出し、開けてみた。
 …再会した日、睦城が着ていた女性物の服だ。
 侑はそれを抱えて、仕事中の睦城の元へ向かった。


「イヤだ」
 睦城は振り向きもせず否定した。
「侑にフラれた原因なのに、絶対イヤだ。」
「それを睦城から俺の手で脱がしたい。」
「は?」
 睦城が振り返る。
「俺の手で脱がして、捨ててやりたい。あの日々は俺にとっても悪夢だった。だから、葬り去りたいんだ。」
 睦城は少し納得したような目つきをしたが、考えさせてくれと再び背を向けた。
 女性物の服は、睦城の横に置いてきた。


「本当に、脱がすだけだろうな?」
 ドアの前に睦城が仁王立ちをしている。
「うん」
 寝る前に寝室でと言うことにして、その後はいつもと変わりなく夕飯を食べて風呂に入った。
「あれ?あの頃と印象が違うな?」
 当たり前だ。あの日、睦城は化粧をしていた。それに年齢も違う。
「…やっぱり、今の睦城の方が好きだな。」
 そう言うと腕を広げ、アッという間もなく睦城を抱き竦めた。
「何もしないって、」
「会いに来てくれて、ありがとう。もう一度、君に恋をさせてくれてありがとう。」
 侑は睦城の返事を待たずに、唇を塞いだ。
 長い、長い口吻だ。
 睦城が、藻掻く。
「く、苦しい…」
「あ、ごめん」
 ゼイゼイと息を継ぐ睦城の、女性物のワンピースの背中のファスナーをゆっくり下ろす。
「もう一つ、ごめん。我慢できない。」
「ん。僕も…」



 ワンピースと、ストッキングが綺麗にたたまれて茶色い紙袋に仕舞われた。
 睦城が、クローゼットの奥からもう一つ箱を出してきた。靴の箱だ。
「これも、」
 ワンピースと同じ色のピンク色のパンプスだ。
「あの時の睦城にさよなら、だ。」
「うん。侑、」
「ん?」
「僕こそ、ありがとう。僕を全否定しないでくれてありがとう。…愛していま」
 最後まで言い終わる前に、侑は睦城の唇を自らの唇で塞いだ。