049.ガイドブック
 営業日に、人が訪ねてきた。
「鎌倉のカフェ特集を企画していまして、この辺りで探しています。取材は可能でしょうか?」
 飛び込みの営業だ。
「更に勝手なお願いですが、併設の鎌倉彫のお店も紹介しても良いですか?」
 それは、願ったり叶ったりだ。
「ガイドブックと言いましても、隔週発売の女性向けでして、プチ旅行の提案型雑誌です。」
 よく、コンビニで売っている「鎌倉で仏像旅」とか、「鎌倉の隠れ家ランチ」などという狭い括りで特集を組んでいるタイプだ。
 取材は定休日にと言うことになり、睦城に伝えた。
「定休日ってことは、僕もいないといけないよね?」
「そうだね」
 ただし、二人の写真は掲載不可とした。
 また睦城が人気者になると、店が回らなくなる。
「店頭の写真ならいいよね?」
 地図と店頭の写真があれば、リピーターならわかるはずだ。
「もしも、店が繁盛したら、僕も厨房にはい…」
「待て!それはお願いだから止めてくれ!睦城に調理が出来るのか?」
「レタスを千切るくらいなら出来るよ。」
「千切るのにも決まったサイズがあるんだ。お金を貰って提供するのだから、みな同じじゃ無いと不公平になる。」
「そっか。僕は邪魔なんだね?」
「違う。睦城には睦城の持ち分がある。俺には鎌倉彫は出来ない。そういう事。」
「向き不向きだね。了解。」
 それよりも、俺としては定休日に客が来ると、前夜に夜更かしできないことが死活問題だ。
 折角の夜なのに。
 セックスに関しては淡白だと信じていたのに、時を選ばず勃起するということは、気持ちが伴わないとダメだと改めて思った。
「侑、なんかイヤらしいこと考えてないか?口元が緩んでる。」
「睦城といたらいつでもイヤらしいこと考えてる。」
「変態かよ」
「じゃあ、睦城は考えない?」
「…考える」
 蚊の鳴くような声で言われたので、無罪放免にした。
「あ」
「ん?」
「紅茶、許可取らなくて良いのかな?」
「夕平?聞いてみるよ。」
 電話するような急ぎでもないので、メールした。
 直ぐに返事が来て、《ドンドン宣伝しておいて!》と、あった。
 衛利にも、聞いておくか。
 《勿論、O.K.にきまってるじゃん。よろしく!》と、快い返事が届いた。
「また、皆で集まるネタが出来たね。」
 睦城も嬉しそうだ。
 睦城と話しあって、親の説得にはまず既成事実から…エロいほうじゃなくて…と、決めたんだ。
 睦城の大作を造り、売る。
 店を繁盛させる。
 この二つが伴ってから、互いの両親に、俺達に子供を望むのは諦めて貰う。
 必ず老後の面倒は見る。
 経済的に負担は掛けない。
 いい加減、アラサー二人をつかまえて、四の五の言われたくないんだ。
 俺達は二人の生活を望み、決めた。
 邪魔されたくない。
 その為には、兎に角世間から認められないといけない。
 幸いにも店と家はある。
 睦城の作品が世の中に認められたら、俺は睦城の家政婦でいいんだ。
 マネージャーをしながら、二人で暮らしていきたい。
と、説得しようと思っている。
「また、何かイヤらしいこと考えてないか?」
「分かったか?今夜は何回、」
「わかった、わかったから言わなくて良いっ!」
 睦城が照れると、可愛い。