「むーつき」
「何?」
睦城が訝しげに見る。
「朝からどうした?」
「この勢いで、睦城の家に行かないか?」
「宿題?」
「うん」
睦城の母から、ずっと二人で居るのなら将来の設計図を見せろと言われた。
「設計図、書けたから」
睦城にタブレットを見せる。
「侑、これは二人の設計図じゃない、君の設計図だ。」
常に僕のバックアップばかりだ。
「それが俺のスタンスって、知って欲しい。」
「でも、」
「俺さ、サラリーマンやって、定年になって、老後生活して、死んでいくんだろうって思ってた。でも、睦城に再会して恋をして、考えが変わった。睦城に成功して欲しいからその手伝いをする。俺はその為に頑張る。」
「侑、それは凄く嬉しいけど、侑らしくない。侑のやりたいことってなに?」
俺は睦城の顎をすくい、顔を近付けた。
今にも唇が触れる距離で、「俺の夢は睦城、君が幸せであること、素敵な仕事が出来ること、快適な生活が送れること。そして…俺を好きでいてくれますように。ってこと。」と、伝えた。
「芸能人が表舞台に立つために裏方がいるように俺は睦城の裏方で良いんだ。その分、睦城の普段が大きくなるから、だから喫茶店を続けている。もう少し開店できる日を増やせると良いけどな。」
睦城が口を開く前に、塞いだ。
反論や抗議は認めない。
これは俺が決めたことだ。
「睦城のお母さん、納得してくれたかな?」
「きっと、大丈夫。母さんは侑のこと好きだから。父は、判らないけど。」
「まだ、お父さんが信じられない?」
睦城の父親は、母親と睦城を囲っていたようなのだが、最近如何にも海外出張が長くて戻れなかった風を装い、母親と同居を始めたそうだ。
それには睦城が家を出たのも原因ではないかというのは俺の推測。
「父は僕に興味なんてないでしょ?元本妻宅に長男がいるはずだから。」
なかなか、気持ちが解けないようだ。
「でも、母は納得したみたいだから、もう口出しはさせない。それより、僕が侑のお母さんを納得させないとね。早く賞をもらわなきゃ。」
睦城はこれから作品と向き合うのだろう。
無理しないで頑張って欲しい。でもそれを伝えるのは、無理をしていると言っている。
だから、心の中でだけ呟く。
人生は長い。
まだ、旅の途中だ。 |