055.その時
「すす…む…侑っ」
 自分の知らない奥深くまで穿たれ、しとどに濡らされ、どうしようもなく乱れ、啼いて、意識を手放した。

「ん…」
 気持ち良くて目が覚めた。
「侑?」
「あ、気が付いた?ごめん、無理させて。」
 侑はバスルームで僕の身体を洗ってくれていた。
「僕こそ、ごめん。凄く…善くて…」
 恥ずかしい。
「わかってる。」
 侑の指が、尻を弄る。
「全部出したと思うけど、念の為シャワーで流すよ?」
「うん」
 この瞬間はとても恥ずかしい。
 でも、侑との性交渉は、したい。
 長い年月、思い描いてきた。
 侑に抱かれる。
 最初の時は、互いに慣れていなかったから性急に事を成して無理をした。
 今は互いに善くなるように、ゆっくりと溶かし、解す。
「侑、僕さ、作品作りにも無理をしていたと思う。」
「うん」
 侑の腕の中は、心地良い。
 バスルームを出て、バスタオルで身体を拭きながら、更に続けた。
「牡丹、やってみる。」
「うん」
「僕の、なんてもう言わない。これ以上はないと言われるような、定番の牡丹を、作る。」
「うん。睦城の思うままに、やれば良い。俺は睦城のサポーターでいるから。」
「ありがとう」
 裸のまま、侑に抱き付く。
「睦城は、魔性のオトコ…かもしれないな」
「発動されるのは侑にだけなんだけどね。」

「こんなに沢山?」
「良く出来てると思う…って、自画自賛だね。」
 女性が使うものと考えるからややこしいのだ。定番って考えれば良い。
 銘々皿、豆皿、箸置き、匙、フォークそして箸。
 生活用品なら男女問わない。
 ここで、自分の掘りたい作品を作れば良い。
 作家としての出品作品はあくまでも定番を狙うんだ。

 狙いが的中する。

 出品した作品が新人賞を獲り、店の商品が売れ始めた。
 また、雑誌の取材があり、テレビで店を含めて紹介された。
 侑が嫌がるのでテレビの取材は侑が出る。なので侑のファンが集まる。
 正直、複雑だ。
 でも、もう迷いはない。
 最高の物を作るだけだ。
 師匠に言われた言葉が、今になって理解できた。

 0から11になるのは難しいけれど、10から11になるのは容易い。

 確かにそうだ、階段も一段ずつ上がれば簡単だけれど、三段ずつ上るのは大変だ。
 父と母にも、侑とのことは1からちゃんと伝えていこう。
 いつか、理解してくれるはずだ。
 決して道は険しくない、ただ遠いだけ。