「こんにちはー」
「店長いますかー?」
「すすむくーん」
…先週からずっとこんな感じだ。
睦城の代わりに、雑誌に顔写真を載せたらこんな風になった。
何をしに来ているんだろうか?
店が開いている日は睦城が何度も二階から降りてきて、ソワソワしてしまう。
いくら言い聞かせても何で睦城は降りてくるんだろう?
「だって!」
「お願いだから言うことを聞いてくれよ、心配で仕方ない…」
「何を心配してるんだよ?僕は侑の方が心配だよ!侑は…前科がある」
「…ごめん」
そうだ、俺は睦城から逃げた。
「でも、今は」
「分かってる!侑が僕のこと大好きなのは!けど…向こうから迫ってきたら…断れないだろ?そん時、僕が邪魔してやろうと…ごめん。」
分かってる、睦城には俺しか見えてない。俺のは取り越し苦労なんだ。
「睦城…愛してるよ」
唇を塞ぐ。舌を吸い、互いに絡め合う。睦城の口元を伝う唾液を舐め取り、再び口付ける。
何度も、何度も。
「ごめん、侑。分かってるんだ。頭では分かっているけど、落ち着いて居られない。馬鹿なんだ、僕が。」
睦城にそんなこと言わせたくない。
「店、辞めちゃおうか?俺、睦城のヒモになろうかな?」
「やだ、そんなこと言わないで。僕は仕事している侑も好き。小町通りで研修していたときも、毎朝見るのが好きだった…侑、かっこいいから…」
は?
「そんなこと、聞いてないぞ?俺が?」
「え?自覚無いの?侑はカッコいいよ?だから、女の子たちが店長目当てにやって来るんだ。」
「あれって、睦城目当てじゃねーの?」
「違うでしょ?」
俺たちは互いを見て笑った。
ただの、似たもの同士だっただけで。
今日も通常通り、店を開ける。
「店長、彼女いるんですか?」
ストレートな質問が飛んできた。
「彼女はいないよ。」
途端に立候補する女の子たちがざわつき始めた。
「けど、嫁がいる…男だけど。」
店内が、潮が引くように静まり返った。
のも束の間、「やっぱりそうでしょ?」「言わんこっちゃない」と囁きつつも歓喜の悲鳴が上がっていた。
後で佐貝くんに言われた、ここに通っている女の子は大体BL好きだと。
…失敗した。 |