060.僕は君の…。
 世界的規模で拡大した新型コロナウイルス。
 感染拡大防止として緊急事態宣言が発動され、家から出るなと言う政府のお達しにより、観光地に人がいなくなった。

「店は開けられない、お客さんは来ない。お陰で僕の方は在庫を増やせるけど収入はないよな?」
 侑が自慢気に微笑む。
「ネット通販始めたから。」
 そうですか。
「でもさ、店を開けないと、ずっと二人きりだな。」
「…触れられないもどかしさはあるけどな」
 そう、このウイルスは不特定多数の人に接触感染若しくは飛沫感染をする。
 つまり、侑とキスも出来ないしセックスも出来ないと言うことになる。
 せめて手を握らせて欲しい!。

「一緒に住んでいなかったら、暫く会えなかったんだろうな」
 テレビのニュースを見ながら呟いた。
「それは迷惑な話だな。」
「…迷惑ってレベルじゃないよ、死活問題だよ。」
 侑が声にせず笑う。
「睦城は極端だな。」
「じゃあ、侑は会えなくても平気なの?」
 僕はイヤだ。
「会いに来たって、誰にも分からないだろ?俺は無理を通す。」
「そういう問題じゃないんだよ。」
 侑の、馬鹿。
「何怒ってんだよ?…欲求不満?」
 僕は侑を睨み付けた。
「最低」
 侑に背を向け、仕事場に篭もった。

 夜、キッチンから焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきた。
「睦城、ごめん。機嫌直して?…欲求不満なのは、俺なんだ。」
 違う、そんなことじゃないんだ。
 それでも僕は侑を許す。
「僕こそ、ごめん。」
 僕から、侑の背に腕を回し抱き付いた。
「誰にも会っていないから、ウイルスもいないよね?」
「いつも、睦城が家中除菌してくれてるから大丈夫だよ」
 え?知ってたんだ。
「言いたいことがあるなら、今日みたいに言ってくれれば良いよ。善処する。」
「ううん。善処してくれなくてもいいんだ。考えが違うのは仕方ない。そこをすり合わせていきたい。」
 侑の腕が、僕を抱き締める。
「でさ、なんで怒ってたの?」
 は?
「だって!」
 今の僕には侑のいない生活なんて考えられない。なのに…ま、いっか。
「侑に抱き締めてもらったから、いいや。」
「そっか」
 侑の唇が僕を捉えた。
「ん」
 一緒に暮らしているから、出来ること。
 一緒に暮らしていなかったら、出来なかったこと。
 考えても仕方ない。
 分かっていることは、僕は君のもの。