062.線香花火
 今夜の僕は、ヘンだ。
 侑が欲しくて欲しくて仕方ない。
 中を穿たれ、思い切り突かれ、内壁を擦って欲しい。
 まるで盛りの付いた犬みたいだ。
 中をしとどに濡らして欲しいと思っている。
 どうしたんだろう?
「す…すす、む」
 僕は、きっと侑に対して言葉が足りないんだろう。
 くだらないことは話すのに、大事なことは口を噤んでしまう。
「中を…擦って?」
 途端に口付けられた。
「可愛いな、睦城は。」
 そう言うと、僕が根を上げるまで、侑は腰を振り続けた。

「侑、衛利に電話してこようか?腰が立たないって。」
「腰が立たないは余計…でもこれじゃ、行けない。」
「僕が取りに行っても良いけど、店は?」
「それはバイトに任せれば平気だ。」
「ごめん、僕が我が儘言ったから…」
 夕べ、いつまでも強請ったから、侑の腰痛が出た。
 今日が店を開く日だって、忘れていた。
「いいよ、あんなに可愛い睦城は久し振りだったから。」
 俯くしかなかった。
 僕は、本当に昔から侑を欲することしかしていない。少しは我慢を覚えたら良いのにと思うけど、侑に関しては一歩も引けない。
「侑の腰が良くなったら、またしてね。」
 …悪魔だな。

「侑、ちょっと来て。」
 夕飯後、僕は侑を庭へ呼んだ。
「今日ね、御成通りで見付けたんだ。」
 線香花火。
「少し時期外れだけど、やろう?」
 ロウソクに火を点け、線香花火に点火する。
「ニンジンの葉っぱみたいだ。」
 笑いながら侑が言う。
「情緒がないな」
「冬の入り口に立っているのに、花火をやっている大の大人もヘンだろうが。」
「昔、出来なかったから。」
 侑は覚えているだろうか?
「鎌倉の花火大会のこと?」
「うん」
 良かった。
「二人だけの花火大会がしたいって。」
「うん」
「本当に二人きりだ」
 侑の手が、僕の頭を撫でた。
「また、欲しくなる。」
「君のためなら何度だって…と、言いたいところだけど3日待って」
 僕に何も言わせないつもりだろう、素早く唇が塞がれた。

 それから数年後、侑は鎌倉花火大会のスポンサーになって僕のために大きな花火を打ち上げてくれた。
 …十発の最後の花火がハートにMの文字だったのが、恥ずかしかったけどな。