| 僕は、キッチンに立った。 そして、途方に暮れた。
 『ナニ』を、どうやって、どうすれば、『アレ』になるんだろう?
 取り敢えずスマホを取り出した。
 『アレ』の名は何だろう?
 僕の体調が悪いときに、侑が作ってくれた『アレ』。
 雑炊なのは分かってる。問題は何が入っていたのかと言うことだ。
 『雑炊』と入力してみると出るわ出るわ、ありとあらゆるレシピ。
 冷蔵庫を開ける。
 分かる食材を照らし合わせていこう。
 ほうれん草、大根、卵。
 その前に米を炊く。
 炊く?
 どうやって?
 仕方が無い、助けを呼ぼう。
 
 「睦城くんは、本当に料理は出来ないのね」
 「すみません」
 侑のお姉さんに援軍を要請した。
 「いいのよ、侑は他に取り柄が無いんだから。」
 何のことは無い、『雑炊の素』という物がスーパーで売っているらしい。
 しかし、僕はそんなことでさえ知らない。
 ずっと、料理は侑に任せっきりだった。
 「ねぇ、睦城くん。侑はあなたには優しいの?」
 「え?あ、はい、とっても。」
 「よかった。あの子は誰にでもいい顔するけど、本心は面倒だと思っているの。出来れば独りで邪魔をされずに生きていきたいって思っていたんじゃ無いかな。」
 そういえばそう言っていた。
 「あなたのことに関しては譲らなかったけどね。」
 僕はお姉さんの顔を見た。
 「大好きなんだなぁって思っていたの。けど、それ以上だったのね。」
 お姉さんは嬉しそうに笑う。
 「誰かと生きていこうって思ってくれて、良かった。」
 
 昨日、病院で検査をしてもらったら風邪だと言われた。ホッとした。
 店は暫く閉めて養生させる。
 「姉貴の味だ」
 「わかった?」
 「うん」
 次は僕が頑張るから、早く治りますように。
 
 あれ?炊飯器の使い方って、どうするんだっけ?
 「米を研ぐ」
 振り向くと侑が立っていた。
 「もう、平気」
 侑のやり方を見ておこう。ちゃんと、看病くらい出来るように知識を得なくては。
 「でもさ、冷凍庫に炊いたご飯を一食毎にラップで包んで入ってるよ?五食分くらい。」
 侑は用意周到だ。
 「睦城はちゃんと食べたか?」
 「うん」
 お姉さんが作ってくれたおにぎりを食べた。
 「納豆が食べたいな」
 「なら、買いに行って来る。」
 「だから、冷凍庫に入ってるよ。」
 侑が僕を抱き留めた。
 「そばに、いてよ。それが一番の薬。」
 忘れていた。
 自分が風邪を引いたときも侑に我が儘言ってそばに居て貰った。
 「風邪は移さないからさ」
 「大丈夫、なんとかは風邪ひかないって言うし。」
 「…思いっきり引いたじゃん」
 僕達は顔を見合わせると小さく笑った。
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