066.嬉しい出来事
 配達を専門業者に依頼することにしたら、物凄くスムーズに行ったので、逆に自由に使える時間が増えた。
「図鑑?」
「うん。相変わらず僕の動物は可愛くないんだよね」
 根付の話だ。
「なら、実家から持ってくるよ。」
 俺は実家にある子供の頃毎日眺めていた、動植物図鑑を取りに行った。
 母は快く渡してくれたばかりか、俺達二人のことを認めると言ってくれた。
 今更反対しても、別々に暮らすこともしないだろうから、睦城の両親がいいといったら、好きにしていいとのことだ。
 元々姉から、家のことは気にしなくていいと言われていたが、すんなりと行き過ぎて怖いくらいだ。
 こうして時々顔出したり、小遣い程度だが金を入れているのも効いているのかもしれない。
 あとは、睦城の両親か。

「鎌倉市の花って、中学の校章にあったササリンドウなんだって。だから、これを彫ってみようかと思うんだ。」
「中学の校章を作る訳?」
「…そうなるのか?ダメなのか?」
 睦城は真剣に思案している。
「明日になったら市役所に問い合わせてみるよ。」
 睦城がパソコンで何か調べ始めた。
「あれは家紋をアレンジしているみたいだね。なら、違うアレンジにすればいいんだな。」
 もう、俺の話なんか聞いていない。
 睦城が楽しんで仕事をしてくれればなんの不満もない。
「今夜は寒いから、シチューにしようかな」
 何気に呟いてみたけど、返事はなかった。

「あ、衛利のクロワッサンだ。」
 ホワイトシチューにクロワッサンと温野菜サラダを付けて、今夜の晩御飯。
 睦城も流石に気付いたようだ。
「デッサンしてみたんだけど、どうかな?」
 ササリンドウのオリジナルデザインは、実物に近いデザインだ。
「可愛いよ、うん、リアリティがあっていいと思う。」
「良かった。鳩もデザインしてみた。」
 鳩サブレーとか鶴岡八幡宮の鳩にならないように注意したようだ。
「いいね、どっちも。」
 満足気に席に着いた。
「侑のお墨付きがあれば安心だ。」
 本当に嬉しそうだ。
「鎌倉は僕たちの故郷だからね。」
 そうだ、僕たち故郷で、出会った場所でもある。
「侑に負けないように頑張るから。」
 そう言うと、手を合わせて「いただきます」と、俺の顔を見ながら、言った。