今日は店が休みの日。
俺は鎌倉までと言って買い物に出てきた。
普段の買い物の振りをして、注文していたモノを取りに来た。
バレンタインデー、いつもはチョコを渡すけど今年は違うものにした。
東京まで行けば直ぐに手に入るのに、少し離れるともう難しくなる。
綿の入った半纏にした。
ダウンだと静電気が発生する。
エアコンは風が出る。
電気式のストーブは良いみたいだけど、着衣で調節する方が便利らしい。
手編みのセーター…ムリムリ。
何故かバレンタインデーが近付くと思考が乙女になるな。
「ただいま」
…返事がない。おかしいな?
仕事部屋を覗いても何処にも居ない。
散歩にでも行ったのかもしれない。
なら、晩飯の支度でもするか。
明日の仕込みも少ししておこう…。
つくづく、睦城が居ないと詰まらない人間だなぁと、思う。
鮭のムニエルを作ろうと思ってたので、仕入れてきた。
それと、ワインでも飲もうかな。
それよりは焼酎の方がいいかな?
睦城はどちらが好きかな?
また、睦城のことばかり。
「ごめん、煮詰まってて散歩に行ってた。」
一時間後、睦城が帰ってきた。
「中学の時の坂間、覚えてる?あいつに会ってさ。漁師やってんだよね。網を繕いながら嫁さんのノロケだよ。」
楽しそうに睦城が笑う。
「そう言うお前は侑とどうなんだ?って聞かれたから、順調だって言っといた。」
睦城が、意外と大胆に話す。
「うん」
思わずその身体を抱き締めていた。
「睦城」
「どうしたの?」
「今年は、チョコじゃないんだ」
「実は、僕も。」
俺が隠していたのは店の戸棚。睦城が隠していたのは仕事道具を片付ける棚。
互いに出した紙袋が同じで、同じ衣料品店なのは一目瞭然。
睦城がくれたのは、店長さんの手編みのセーター。
「似合うと思うけど。」
「こっちは似合うんじゃなくて寒くないだけで…」
袋を開けると声をあげた。
「嬉しい!これね、暖かいらしいよ。助かる!」
木屑で汚れても良いものにした。
風呂場の窓から外が見える。
空から白いものがチラチラと落ちてきていた。
雪だった。
「睦城、雪」
俺は窓を見上げて膝を抱えた。
ホワイトクリスマスは聞いたことがあるけど、ホワイトバレンタインデーはあるのかな?
そんなことを考えた。
「ホントだ」
風呂場のドアを開け、顔を覗かせた睦城が、嬉しそうな声をあげた。 |