069.何でも美味しいよね
 なかなか世の中が元通りにならず、相変わらず緊急事態宣言は発生中だ。
 それでも観光地にはどんどん人が戻ってきていて、時短営業要請だけに振り回されている感じだ。
 営業日は週に3日は変えず、土日月のみにした。週末にしかお客さんが来ないからだ。
 但し、配送のテイクアウトには火曜以外は応じる。
 火曜は完全休業日だ。


「侑、お腹空かない?」
 睦城が布団の中からポツリと呟いた。
 定休日は遅くまで寝ていることにしている。
 なぜなら、前夜遅くまで起きているからだ。
「そろそろ起きようか?」
「うん」
 火曜はゴミ出しもない日だ。


「美味しい」
 昨日から仕込んでおいたフランスパンのフレンチトーストを焼いた。それを嬉しそうにモグモグしている睦城は可愛い。
「これはお店に出さないの?」
「うん。睦城専用」
「やった。」
「そうだ、今日は久し振りに横浜まで買い物に行こうか?車出すよ。」
「あ、丁度欲しい材料があったんだ、助かる。」
 そんな気がしたから言ってみた、良かったよ。


 昼過ぎに家を出て車を走らせた。
 以前よりは道が空いているのでスムーズに目的地に着いた。
 睦城は仕事に必要なものを買い込むとニコニコと俺の手を引いた。
「店で着る服を買おう。少しお洒落しないとね。」
 睦城が楽しそうなことに対して反論する気は更々ない。素直に従おう。
 しかし。
 ただのマネキンだな、これは。


 買い物を終えたらすっかり夜だった。
「何か食べて帰ろう?」
 睦城が珍しく外食を提案した。
「でも時短営業だから、」
「一時間もあれば十分。」
 そう言って連れてこられたのはラーメン屋だった。
「侑と久し振りにラーメン屋に来たかったんだ。」
 睦城らしい。どうせ、俺が台所に立たなくても良いように気を遣ってくれたのだろう。
 そう言えば中学の頃、よく二人で行ったな。
 お陰で晩飯が食えなくて怒られた。
 それでも睦城と一緒にいる時間を優先した。

 翌朝はパンケーキを焼いてみた。
「これも?僕専用?」
「これは試作品」
「なんだ、残念」
 なんでも睦城専用にしたら、店がつぶれます。