076.夏の海
「俺が言った通りに手を動かせば、料理は作れる」
 …見栄をはって偉そうに言ってしまった。
 国から調理師の資格を得たが、まだまだ新米だ。
 でも。
 左貝よりは良いだろうと自負している。
「包丁は使えるよな?なら、ジャガイモとニンジンとタマネギを同じ大きさに切る。わかった?」
 左貝が不承不承という感じで「わかる」と、返事した。
「やってみて。」
「う、うん」
 覚束無い手付きでゆっくりと切る。
 優に十五分は掛かっただろうか?
「豚肉も同じ大きさに切る…って、それはスライサーで切れるだろ?店で。」
 左貝の実家は肉屋だ。焼豚で有名だが、本職は肉屋だ。
 当然肉を切るスライサーがある。
「うん」
「それを用意する、いい?」
「うん」
「今日は用意してあるから、これを使おう。」
 冷蔵庫に予め入れておいた。
「部位は肩ロースがベスト。」
 その後、延々とカレーの作り方を伝授した。
「いい匂いだね。」
 丁度出来上がった頃、睦城が匂いを嗅ぎ付けて二階から降りてきた。
「全部左貝が作った。」
「すごーい!僕は出来ない。」
 すると、少し嬉しそうに笑った。
「明日は卵焼きの焼き方を教える。パンは届けるから、サンドイッチは作れるだろう?」
「マーガリンと粒マスタードを塗って、卵焼きと豆苗とサニーレタスを挟む」
「そうそう」
 海の家のメニューが決まった。
 カレーとサンドイッチ。かき氷とドリンク。
 うちの店が休みの日は応援に行く。
 その日はメニューを追加する。
「侑は何を作るの?」
「うん、まだ決めかねているんだ。」
「オムライスは?」
「あ、いいね」
 左貝が同調した。
「なら、そうする?それとドリンク類はオレンジとアップルなら手配できる。あと、俺からアイスティーは提供できるけど、行けない日はなくても平気か?作り置きしたくないんだ。」
 紅茶に関してはこだわりがある。
「水出ししたら?」
 睦城が余計なことを言う。
「値段に差を着けたらいいよ、プロ仕様と一般用って。」
「いいな、それ。」
 左貝はまた、同調する。
「仕方ないな。」
 こうして、海の家の準備は順調に進んだ。