077.夏の店
「いらっしゃい」
 和海が店頭で愛想を振り撒く。
 しかし、お客さんの目当ては、厨房に立つ美矢間くんだ。
「お兄さんはお昼休憩何時から?」
 美矢間くんは気付かない。
「おーい!侑!」
「あ?俺?なに?」
「休憩何時から?」
「休憩はないよ、帰るから。店の支度があるしさ、」
「侑!」
「なんだよ、左貝?」
 また、和海と漫才が始まった。
「無愛想過ぎないか?」
「だって、納品に来て手伝わされている俺の身になってくれよ。今日は店が休みじゃないんだ。」
「うちだって、死活問題だ」
「俺が休みの日だけだと言ったよな?ムリしてオムライスなんか作るな」
 侑くんはオムライスを作り終えると、エプロンを投げ捨てて帰っていった。
「和海、ムリはいけない」
「うーん、仕方ないかぁ」
 和海はメニューを差し替える。

カレーライス
サンドイッチ
スパゲッティナポリタン
焼そば
ホットドッグ

の五つだ。
 カレーライスは昨夜仕込んで一時間に一回火を通している。
 サンドイッチは先ほど美矢間くんが届けてくれた。
 スパゲッティナポリタンは業務用スーパーで買った鍋で3分湯せんすればいいやつだ。
 焼そばは既に具は切ってある。そばを入れて炒めるだけだ。
 ホットドッグは、ソーセージを炒めてパンに挟む。
 パンも美矢間くんが納品してくれた。
 7月からずっとこの生活が続いていて、自分の店は休業状態だ。ま、問題ないけど。
「誉輝、もう少ししたら高校生のバイトが来るから。」
「高校生?」
「親戚の子供。七里ヶ浜高校に通ってて、夏前は試験がないんだって、二期制だから。」
「いまの高校は二期制なんだ」
 和海と付き合うようになって、いろいろな情報が流れてくる。
 サーフィンも高校生から始める子が多いんだそうだ。
「その高校生がサーファーなんだ」
 ほう。なら、また情報が仕入れられるかな。
 毎日が楽しいな。
 和海との毎日は本当に楽しい。
 全然違う職種なのに意外な共通点もあって、驚きもある。
 三条くんとも知り合えたしな。