「え?」
「うん、なかなかコロナが収束しないからさ、店の営業は土日と祝日だけに決めて、基本はテイクアウト、でも店内でも飲み物だけは提供する。歩き疲れた観光客の休憩所になって欲しいという、最初の目的は崩さないでおこうと思う。」
侑が淡々と話す。
きっと、色々考えたのだろう。
「平日は睦城の仕事の手伝いをしたい。車、出せるから。」
睦城は実家から車を借りてくる。
「ありがとう」
実は、既に僕の収入だけで二人が暮らしていけるだけはある。
東京のデパートから声が掛かって、販売品は全て引き受けてくれる。
大作は引き続き出品している。
いつか、先生のように弟子を受け入れるにはある程度の知名度が必要だから。
今は女性向けのメイクボックスを制作中だ。
「綺麗だね、桜?」
「うん」
桜は侑との思い出が沢山詰まっているから好きだ。
「来年、吉野の桜を見に行かないか?車なら大丈夫だろ?」
「そうだね。」
それまでに、収束してくれているといいな。
もっともっと、侑との思い出を増やしたいから。
「この桜は、段葛の桜」
「うん」
侑はなんとなく気付いていたようだ。
「侑と、歩いたよね。昔。」
「一昨年も歩いたよ」
「うん」
でも、中学の時の方が色濃く残っている。
気持ちを伝えたくて、でも怖くて。
友達のままでいいかとか、恋人になりたいとか。
でも、恋人になってどうするのかとか。
色々ぐるぐると悩んでいた。
「睦城と一緒に出掛けるの、楽しかった頃だもんな。」
「うん」
僕の初恋は、侑だから。
一生で一度の恋だから。 |