082.同じでいいじゃん
 店で売るのに、人気があるのは女性ものだ。
 手鏡、櫛、メイクボックスなど揃えることが出来るものは喜ばれる。
 その他、夫婦箸や根付けなどはカップルに喜ばれる。
 他にポケットティッシュケースも便利らしい。
「相変わらずぐるぐるしてるね?」
 侑が楽しそうに聞くからちょっとムッとした。
「侑も少し考えてよ」
「うーん、考えてはいるよ。でもさ、作るのは睦城だから、外野になっちゃうんだよ、ごめん。」
 あー、最悪。また侑に当たってしまった。
「あのさ…」
 侑が言い出し難そうにモゴモゴしている。
「なに?」
「俺たちの生活だけなら店の売り上げだけでまかなえるんだ。だからさ、睦城は職人としての腕を磨いてくれていいんだ。」
 あ、そう言うことか。
「うん、ありがと。でもさ、いつも作品作りに没頭できるってわけでもないんだ。例えばさ、金魚を飼うには金魚鉢を買ったり、水草を買ったりして前準備が必要だろ?それと一緒で、大作に入る前にウォーミングアップが必要なんだ。」
「準備体操?」
 あ、その説明があったか。
「そうそう。でも、ありがとう。」
 僕は幸せだとつくづく思う。
「最近、思うんだ。奇をてらわなくてもいい、人と同じでいいじゃんって。」
 僕は伝統工芸に携わったのだから、代々受け継がれたものを大事にしないといけないんだ。
「これからは、背のびしない」
 侑が、ふわりと抱き締めてくれたから、間違っていないと確信した。
「折角さ、伝統工芸に携わっているんだから、それを壊す必要はないんじゃないかなって思った。だから睦城が作りたいのなら色々手を出してもいいけど、素直になっていいよ。」
「僕は素直じゃないからね」
「そう言うことではないけどさ…」
 大丈夫、僕は侑が大好きだから。
「じゃあ、手鏡にするか」
「何が?」
「ウォーミングアップ」
「はいはい」