| 「感染症が蔓延したから外出規制があったでしょ?出生率が上がったんだって。」 夕飯時、事実として侑に伝えた。
 「なに?誘ってる?」
 「な!違うし!」
 「へー」
 「…こんな風にして、世の中の男女は情を交わすのかな?」
 「じゃね?基本的に生物は子孫を残すために生殖活動を行うだろ?俺は睦城との未来のために、肌を合わせる。」
 侑は平気で恥ずかしい言葉を口にする。
 「うん」
 「今、恥ずかしい奴って思ってる?」
 「思ってる」
 「睦城には若い頃に寂しい思いを一杯させたから、これからは大切にする。」
 テーブルの上で手を握られた。
 物凄く、ドキドキする。
 どうしよう、侑じゃないけどこれじゃあ、誘ってるって言われても仕方ない。
 「なんてね、睦城はいくつになっても初心だからな」
 侑の手が離れようとして、思わず握り返した。
 「どうした?本当に誘ってる?」
 楽しそうに笑う。
 だから僕も笑った。
 
 「化粧箱?」
 「うん。大名の娘が嫁に行くとき、豪華な彫刻や装飾を凝らした道具を持参するんだって。」
 侑が少し思案顔をし、合点がいったようだ。
 「大学の博物館だったかな?見たような気がする…あ、国立博物館だ。」
 蒔絵や貝で彩られたものだそうだ。
 「行ってみるか?」
 見たい。
 「うん」
 「なら、明日の朝一でいいかな?」
 「うん」
 侑は行動が早くていいな。僕は直ぐにグダグダ考えてしまう。
 実家へ車を取りに行くから、出発は9時になった。
 「折角東京へ行くのだから他にも興味があるものがあったら見に行こう。」
 「なら、侑の大学に行きたい」
 侑が過ごした場所を一緒に見たい。
 「わかったよ、一緒に行こう」
 あの時、どうして僕たちは離ればなれにならなければならなかったのか、もしかしたらそこに答えがあるかもしれない。
 「だから、今夜はその気になっても無理だからな。」
 え?
 「あ、うん。そうだね。」
 全くと言っては大袈裟だけど、僕はその気はない。けど、全否定すると申し訳ないので肯定しておいた。
 僕は侑とのデートの方が楽しみで仕方ない。
 「どうしてもって言うなら、明日帰ってきたら、な?」
 侑がしたいんでしょ?無理しなくていいのに。
 「侑。僕は侑とするの、気持ちいいんだけど侑は僕で…」
 人差し指が、言葉を遮る。
 「あのさ、したいから屹つし、気持ちいいから出るわけ?わかる?」
 わかってるよ、そんなこと。
 「睦城じゃなきゃ、したくない。」
 「うん。嬉しい。じゃあ、今夜は早く寝て、あした、しよ?」
 侑が、笑った。
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