086.雨のドライブ
 天気予報はあてにならない。
 今日は曇りって言っていたのに、朝からずっと雨だ。
 フロントガラスをしとどに濡らし、更に降り続ける。
「でも、車のなかだから濡れないし、僕は気にならないけどな。」
 睦城は外の景色を眺めながら、楽しそうに声を弾ませる。
「睦城が楽しいなら何の問題もないよ。」とは言ったものの、前が見え難くなるほど降っている。
「少し雨宿りしようか?」
 睦城が申し訳なさそうに提案してきた。
「雨宿りなんかしたら、博物館に行けなくなるけど?」
「そうじゃなくて!」
「ごめん、冗談」
「うん、わかってる」
 そんなやり取りをしながら無事に上野に辿り着いた。
 国立博物館、聖徳会館と昔のものがあるところをぐるぐると見て回った。
 ふと、睦城が歩みを止める。
「どうした?」
 目の前には、各時代の名工の作品展のポスターが貼られていた。
「二週間後か。また来よう。」
「いいの?」
「あたりまえだろ?」
 どうして睦城は甘えてくれないんだろう。
「行きたいところがあるなら言いなさい。その方が、」続きを耳元で囁く。
「誘惑されるより嬉しいかな」
 小声で言ったのに、意外と響いた。
「バカ」
 嬉しそうに微笑んだ。

 外に出ると雨は上がっていたがどんよりと曇っていた。
「また降りそうだね」
「食事をして帰るか、家に帰ってゆっくり食べるか、どっちがいい?」
「家がいいな」
「了解」
「なら、東京駅に寄って駅弁を買って帰ろう!」
 珍しく睦城から提案してきた。
「そうだね、面白そう」
 東京駅に着くと地下駐車場に車を停めて、入場券で駅構内に入った。
「侑」
「ん?」
 改札を抜けて突然「今夜、する?」と、聞いてきた。
「え?」
 また、ストレートだな。
「なんとなく。」
「いいよ」
 睦城が俯いてしまったから、表情は解らなかった。