089.初体験
「流石に全員分だと足が出るらしくて、ひとつだけ作成して写真にするらしい。」
 俺達の母校であるO中学校から、睦城に卒業アルバムの表紙を作成して欲しいと依頼があった。
「それでも僕が卒業生だと分かって依頼してくれたのだから受けたい。」
 表になる方に牡丹、裏になる方に桜を配置して欲しいとのことだ。
「この間、衛利の店にもクッキーの注文が入ったって言ってた。」
 なんだか卒業生を狙ってないか?
「あれ?夕平もなんだかそんなことを…」
 本当に卒業生でかためているのか?
 そんなことを思っていた。
「うちの学校、卒業生に自営業が多いらしくてね、それは面白いってなったらしいんだ。」
「そうなんだ。」
 なんだろう。除け者になったようで、少し寂しい。
「最近の中学校って、卒業式の後に謝恩会があるんだって。でも今年も新型コロナの影響で中止だとか。だから衛利と夕平の所に持ち帰れるプレゼントの依頼があったらしいよ。」
 睦城にはお見通しみたいだ。
「ありがと。」
「なにが?」
 しれっと、返事をしてくれた。
 それから暫くして、俺のところにも中学校から連絡があった。
 前職の土産物を手配できないかということだ。
 今でも店頭に並べているので問題はないが、なぜ俺のところに聞いてきたのだろう?
 答えは簡単だった、睦城の言う通り卒業生に連絡した方が楽だからだ。
 商品を仕入れて衛利の所のクッキーと合わせてラッピングまでが俺の仕事だ。
 中身が見えるように透明の袋に入れてリボンで飾った。
 睦城も作業を手伝いながら「今年は僕たちの学年ばかりらしいよ。上手くいったら来年からは他の学年にも声をかけてみるんだって。」と教えてくれた。
「初の試みってやつか。」
「うん。」
 学校でも色々考えているんだな。
「でもさ、こう考えると、土産物って結構需要があるんだな。」
「日本全国津々浦々何処もが観光地化しているからね。需要はあると思うよ。」
 今一度、この土産物について、考えてみる手もありそうだ。
「土産物を通販したらどうだろう」
「一昨年は突然休業要請があったから、土産物店でも通販を始めたみたいだしね。」
「あちこちの会社から仕入れて詰めればいいのか・・・採算が合うか調べてみるか」
「侑」
「ん?」
「この店は侑の紅茶と土産物だけでいいと思う。もう食事は提供しなくてもいいんじゃないかな。周辺に店も増えたし。」
「そうだな」
 開店当初に戻るわけだ。それもいいかな。