090.唯一無二
 睦城の父親が他界した。
 結局最期まで理解はしてくれなかったけれど、納得はしてくれた。
「もともと、僕にとっては居ないような存在の人だったからあまり実感がないな。」
 家に戻ってきて喪服を脱ぎながら呟いた。
 喪主も母親が務めた。
「お義母さん、一人になっちゃうけど…」
「なに?侑は同居を解除する気?」
 その言葉に、俺は訂正を入れる。
「睦城、同居じゃない、結婚生活。」
 俺にとって睦城は生涯唯一無二の存在だ。
「だから、離れるときは離婚だ。…お義母さんとの距離を縮める時じゃないかな。」
 俺は睦城に提案をした。
 昼間は俺が店を開いているから、睦城はお義母さんの所で製作作業をする。
 夜は家に戻る。
「極楽寺だから、近いし。」
 睦城は最初渋ったものの、最終的には折れた。
 休みの日、俺も両親の住む家に顔を出すのが条件だ。
「大きな家があれば三世帯とかでも良いんだけどな」
 何気なく言ってみたのだが、翌日、睦城が意外なことを言った。
「大家さんに掛け合ったら、裏の空き地と合わせて売ってくれるって。」
「ちょっと待って。それは、」
「僕が買う。実家を売れば元手になる。」
「なら家の実家も売るよ。」
 そうすれば土地代は出るだろう。
「この家もまたリフォームしてもらって裏に増築しよう?そうすれば僕たちのプライバシーも守れる。僕は侑と離れる時間が惜しいんだ。」
 全く。
 いつかこの家を買い取ってリフォームしようと貯金をしていたらしい。
「僕にとって侑は唯一無二のパートナーだから、母のことで離ればなれになるのは焦れったいんだよ。」
 最近の睦城は何だか常に焦っている。
 どうしたのだろう。
 睦城が急かすので、両親に話をしたら案外すんなり了承を得た。
 今回も友人に頼んで増改築の手はずを整えた。
 でも余りにも急いだので、不安がつのった。
 睦城になにか変化が起きているのではないかと。
 何かあるときに限って、睦城は何も言わなくなる。