091.提案
「ずっと考えていたことがあるんだけど」
 侑に、告白した。
「僕の夢は師匠みたいに弟子を育てることなんだ。だけどさ、まだまだそんな器じゃないからさ、一緒に成長していけたらなって思ったんだ。それで、市役所に問い合わせてカルチャースクールの講師はできないかなって思うんだ。」
「いいと思うよ」
 侑は肯定してくれた。
「お義母さん、結局こっちには戻らず別荘で暮らすって言うし、家の両親もお金を貸してくれるってなったから、土地を買っただけでリフォームは延期になったし、問題はないだろ?」
「うん。でさ、カルチャースクールの講師を少しやってみて、そのうち家でやろうかなって。」
「睦城の好きにしたらいい。」
 侑は優しすぎる。
「実はさ、少し心配していたんだ。お義父さんが亡くなってお義母さんは遠くで一人暮らしになっちゃったから、情緒不安定なんじゃないかって。」
「そんなわけ…ない。」
 言ったものの、侑がそう感じたのならそうだったのかもしれない。
「カルチャースクールでは何を教えるんだ?」
「彫刻刀の使い方と、コースターを半年掛けて作ろうかなって。」
「睦城…なら、初めから家でやったら?生徒さんは少人数なら問題ないだろ?アクリル板を購入すれば仕切りも出来るし、アルコール消毒はあるし。」
 初めから家で教えるってことは考えもしなかった。
「家でやれば、生徒さんにおもてなしも出来るしな。」
 侑は業とそう言うんだ。
「ありがとう。何が必要か調べてみる。」
 初心者用の彫刻刀を仕入れれば、月謝をいくらに設定すれば赤字にならないかな?
「睦城、経費の計算は俺がする。」
 あ、ばれた。
「睦城のやりたいようにやってくれ。」
 やっぱり、侑は優しすぎる。
「店を教室に使えないか?必要なら机と椅子を揃えて、」
「それはいいね。店が休みの日を教室にすればいいのか。」
「なんか楽しくなってきた。でも、睦城の製作時間が削られるから、週一回が限度だな。」
「そうだね。」
 侑が何か考えているようだ。
「ホームページを作ろう。そこで宣伝して・・・あとは店にポスターを貼って・・・。」
 なんだ、もっと早く言えば良かったな。
 侑は、僕に甘すぎるんだ。
 だからつけあがってしまう。