092.思わぬ収穫
 睦城の教室は二週間に一回。でも毎週開催している。
 理由は意外なことだった。
 睦城が賞を貰っているということでやってくる子供の生徒。
 趣味の幅を広げたいとやってくる大人の生徒。
 教える内容は同じだけれども教え方に違いがあるので別々に開催している。
 子供たちには将来を見据えて出来るだけ興味を持ってもらうよう心掛け、大人たちには出来上がったものが心惹かれるよう作る際に丁寧に教えた。
 お陰でどちらも脱落者なくみんな楽しそうだ。
「初心者コースの次は考えてるのか?」
「うーん、それがさ、それをやっているとどんどんコースばかり増えて自分の創作時間がなくなっちゃうんだ。」
「それもそうか。なら、次からは初心者コースひとつ、上級者コースひとつにしたらいいんじゃないか?」
 睦城は思案した。
「うん、侑の提案通りにしよう。上級者には手鏡をと思ってる。」
「思うんだけどさ、板で良くないか?」
「板?」
「お盆でも何でも、兎に角牡丹のイメージがあるじゃないか、鎌倉彫は。それを利用させてもらおう」
 睦城は嬉しそうに微笑んだ。
 侑は思う。
 睦城が笑っていられる時間を、出来るだけ沢山、得ることが出来るようにと。

「ほんと、人それそれだよね。」
 無事に上級者コースを終えた生徒を見送り、二人は感想を口にしていた。
「まさかさ、あの板を鍋敷きにするなんて発想、なかったなぁ。」
「へー」
 睦城の楽しそうに話す姿を、侑もまた、楽しそうに見詰める。
「殆どの人はそのまま飾るって言ってた。本来はこのあと磨いたり漆を塗ったりすると言うことは伝えてある。」
 侑の腕が伸び、睦城の肩に到達すると、そのまま抱き寄せた。
 睦城はそっと目を閉じた。
 腕の中で睦城は「一人さ、漆に興味を持ってくれた子がいてさ、先輩に見学できるところがないか聞いてみたんだ。そうしたらさ、師匠が所依買いしてくれたんだ。」とつぶやいた。
「流石師匠だな」
「うん。・・・こんな風にして繋がっていったら素敵だなって」
 睦城の選んだ仕事は、本当に素晴らしいって俺は思うよ。
 いつか、そう睦城に伝えたい。
 でも、今は君のこころのままに・・・。