095.そういうこと
 侑の家は、お姉さんが旦那さん(次男)と息子さんを連れて帰ってきたので、跡取り問題はなくなった。元々侑のご両親はお姉さんと仲が良かったので、可能であれば婿養子を迎えてと思っていたようだが、マスオさんになったようだ。
 侑も金銭的には援助しているし、何かあればすぐに飛んで行く。
 僕の方は母が熱海へ行っているが、何れ連れ戻すつもりだ。
 父は鎌倉霊園に墓地を買っていたから、そこで眠っている。母もそのつもりだろう。
 実家は処分したので一緒に暮らすつもりだ。
「睦城の家のお墓、睦城がいなくなったらどうする?」
「それなんだけどさ、一定期間が過ぎたら永代供養をしてもらえるようにしようと思う。その時、僕たちも一緒にお願いしようと思うんだけど、嫌?」
「睦城と一緒にか…そうだよな。だけど…成就院に憧れるよな。」
 極楽寺の切通にある、海の見える墓地。その場所は母もよく羨ましがっていた。
「ずっと、問い合わせていたんだけど、空きが出たんだ。睦城のお父さんも一緒に移したらどうだろうか?」
 まだ供養したばかりだけれど、折角空きが出たのなら先手を打たない手はない。
「今流行りの墓じまいだね。」
「ごめん、睦城の親族で流行りのことやったりして。」
「そういう意味じゃないし。母に聞いてみる。」
 メールをしたら、喜んでいた。
「まだまだ先だと思うけどさ…睦城とこれから先も一緒にいるためにはどうしたらいいかと考えてて…本当にたまたまなんだよね。」
 侑の実家が成就院に先祖代々の墓地を持っていることは知っている。
「近くがね、墓じまいしたらしいんだ。」
と、嬉しそうに言った。
「ありがとう」
 僕の家は、元々鎌倉ではない。父と母が暮らし始めたのが鎌倉だった。その後父が単身赴任した際も、鎌倉の家を手放さなかった。なのに今、母は父と最期に過ごした地で、何を思いながら暮らしているのだろう。
 父に先立たれて、やっと判った気がする。
 父は、母も僕も愛してくれていたと。
「母から、返信が来た…宜しくお願いしますって。」
 僕も、嬉しい。
 この世から去っても、侑と共にいられることの契約が出来ることを。