謙一郎&温シリーズ
=花=『冬の花』
「ねぇ、信之助。」
「はい?」
「冬に咲く花はどうして哀しいの?」
「哀しい…ですか?」
「うん、花に勢いがないよ。」
「でも…私は冬の花が好きですよ。」


 予告通り、温が客を連れて大晦日の日にやって来た。
「私の親戚です。」
 温の母方の祖母の弟の孫にあたるそうだ。
「でも祖母の弟は養子に行っている上に結婚していません、そして自分も養子をとっているので、恭二の父親は祖父とは血の繋がりがありません。
 どっちかと言ったら私のほうが似ていると思います。」
 この子は何を言っているのだろう?
「つまり…」


「私は父の本当の子供じゃないんです。」
 信之助さんがぽつりと言った。
「だから私は父の跡を継ぎたいのです。
 一郎さんのお父様…旦那様には申し訳ないですけど私は庭師になりたい。」
 信之助さんが高校生の頃だった。


「信之助さんのお孫さん…なのかな?あっちゃんが言いたいことは。」
「はい。私の祖母が信之助さんの実の姉になります。」
「ありがとうな、わざわざそんなこと言ってくれて。でも信之助さんは戦争で死んだ…」
「生きていたのです、終戦後ロシアの捕虜になって15年間抑留生活をしていたそうです。帰国後、祖父は実の姉を頼ったそうです。義父の元には帰れないと言っていたそうです。」
 …まったく、この間の手紙といい今日のことといい、私は何か悪い事をしたのだろうか?
 騙されてばかりいる。
「これが祖父の写真です。」
 恭二が差し出した写真には温より20歳くらい年上のよく似た男性が写っていた。「これがたった一枚の写真なんです。」
 これが、信之助さん?
「違う…信之助さんは…」
「帰れなかったのです、あなたの元へは。だって…あなたは幸せな結婚をして伸子さんがいた。そんな所へ戻れますか?」
 そんな…信じない、私は絶対信じない…。


「一郎さん、1つだけ約束してください。なにがあっても必ず幸せになってください。そして…一郎さんに良く似た可愛い子供に会わせてください。私は一郎さんの子供の家庭教師をしてあげます。」
 まだ戦争が始まったばかりだったから私も信之助さんもまさか二人とも戦地に赴くなんて思っても居なかった。
「信之助は頭良いからなぁ…」
 でも私は子孫を残す気なぞさらさらなかった。
「その時になったらね。」


「約束…したから…子供…」
「はい、祖父はよくそう言っていました。『あの人によく似た可愛い女の子だ』って。」 なに?
「祖父は、このすぐ近くに住んでいたのですよ、ずっと。そこで父を養子に迎え、私が産まれました。」
「近くに…いるのか?」
「…いました。ずっと…」


「正月が過ぎて10日経つと一郎さんのお誕生日ですね。」
「うん。」
「何かお祝いしなければいけませんね?」
「冬の…綺麗な花が見たい。」
「それは無理です、冬に咲く綺麗な花…一郎さん以上に綺麗に咲く花はありません。」
「ばーか」
「はい」
 でも私はその言葉がとても嬉しくて、今でも忘れられない。