| 「あっちゃんっ」 僕は思わず叫んでいた。
 「何?」
 疑問符を口にしたけれど、表情は知っている…って感じだった。
 「なんだ、また知っていたのか…」
 「だから何?」
 「いいよ…一人で読むっ。」
 僕はちょっと拗ねてみる。
 「一郎さんから手紙でも来たの?」
 「やっぱり知っていたんじゃないか。」
 「知らないよ。ただ、嬉しそうに飛んできたからそうじゃないかな?って思っただけだよ。」
 「ふーん?」
 思いっきり疑っている僕。
 「で?何だって?」
 「そうそう」
 僕は手紙を開いた。
 
 
 拝啓
 毎日うっとうしい日々が続いておりますが、温様、謙一郎様にはお元気でお過ごしでしょうか?
 と、書いていたら横で信之助さんが「今時の若者はこんな堅っ苦しい文章は読めん」というので話し言葉で書く。
 信之助さんは来週の水曜日退院する。
 そうしたらあの家に連れて帰っても良いと言ってもらったので私の家族を呼び寄せて皆で暮らそうと思っている。
 あっちゃんもけんちゃんも遊びにおいで。
 信之助さんが待っている。
 
 
 封筒の中から、じいちゃんと信之助さんの写真が出てきた。
 僕らがお見舞いに行った時、撮ってあげた奴だ。他の人にはどうしても頼めないと言うので撮ってあげた。
 「良い笑顔だね、じいちゃん。」
 「うん」
 「キスくらい、させてもらったかな?」
 「下世話な話題にしないで欲しいな。折角の純愛を。」
 「どうせ。僕は性欲ばっかりだから。」
 腕をあっちゃんの首に回す。そっと、目を閉じる。
 ――プシュー――
 「おわっ」
 「げっ」
 いけない、あっちゃんは素麺を茹でていたんだった。
 
 
 「今日さ、綺麗だったんだよ。」
 今の職場は高層ビルの9階にある。その窓から何気なく見下ろすと、家路を急ぐ人々の傘が沢山、並んでいた。
 「大きさも大体同じだからさ、紫陽花みたいじゃないか。」
 「紫陽花…」
 …そっか、じいちゃんが帰ってきたらもう僕は庭の手入れをしなくてもいいんだ…
 「謙一郎」
 「ん?」
 「引越し、しようか?」
 ……………
 「うん…」
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